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62 こっそりお出かけ

 とりあえず鳥を目の届く場所に置くことができた。


 俺はこっそり屋敷を抜け出して、街に行きたい。ちっこい鳥はオリビアの使い魔だから、俺の行動を逐一オリビアに報告しているのだ。俺が脱走したと報告されてはお出かけが早々に終わってしまう。


 今日は騎士団が街の見回りに行く日でもある。騎士団の荷馬車に乗り込んでお出かけする作戦を立てている俺にとって、今日は絶好のチャンスだ。


 クローゼットから引っ張り出したお出かけバッグを肩にかける。中にはお父様からもらったお小遣いが入っている。


 いそいそ準備を始めた俺に、戸棚の上を陣取っていたルルが『おいおい。なにその怪しい動き』と偉そうに苦言を呈する。


『まさかまた脱走しようなんて考えてないよな? オリビアに叱られるぞ、チビちゃん』


 挑発的な物言いに、頭上の鳥を睨んでやる。どう考えてもおまえの方がチビだろうが。俺よりちっこいくせして偉そうだぞ。


「行くぞ、猫」

『本気ぃ? もうやなんだけど』

「わがまま言うな!」

『わがままはそっちだろう」


 うだうだうるさい猫のユナは、こう見えても俺の使い魔である。なんだかんだ言うことをきいてくれる。


 ふんと気合を入れてドアに手をかける。

 そっと開けば、ちっこい鳥が『おいこら! なにしてんだ』とピヨピヨ言いながら飛んできた。俺の肩に止まってうるさいルルは『オリビアに言ってやる』と不穏なことを言い出す。しかし相手はちっこい鳥。俺の敵ではない。


 肩に止まるルルをむぎゅっと掴む。

 不意打ちだったのだろう。『あ、おいこら! なに気安く触ってやがる!』とバタバタうるさいルルを握ったまま、ポメちゃんの元へと駆け寄る。


「ポメちゃん。これ食べていいよ」


 寝ているポメちゃんの口にルルをぎゅっと押しつければ、『ひぇ……! 助けて! おい、ふざけんなよ!?』とルルが大暴れする。


 くわぁと欠伸するポメちゃんは『まずそうだから食べない』と繰り返す。


「じゃあ持ってて」


 床に伏せるポメちゃんの前足と床の間に、どうにかルルを押し込んでおく。


『ぎゃあ! やめろ!』

「うるさいぞ、鳥!」

『なんやこの子……! 助けて、オリビア』


 その賑やかな様子を眺めていたユナが『かわいそう』としみじみ呟いている。どこが可哀想なんだ。ちょっとポメちゃんに預かってもらうだけだもん。


 ポメちゃんは体が大きいから。ちっこい鳥ごときには負けない。


 これで俺の邪魔をする者はいなくなった。安心してお出かけできる。


 改めて廊下に出て、ワクワクと先を急ぐ。しかし使用人さんたちにお出かけを悟られてはいけないので、細心の注意を払いながら外に出た。


 騎士団が出発前に集まっている場所へと駆ける。


 遠目からデリック副団長の姿が見えた。先程ルルを捕まえてくれた張本人である。


「……静かにしろよ、猫」

『はいはい』


 なんだか諦めたような顔で頷くユナは、『本当に行くの?』と弱気な姿勢をみせる。ここまで来たからには行くに決まっているだろう。


 赤髪のバージル団長がみんなに声をかけて騎士を集めている。

 団長と副団長が大声で今日の予定などを説明している間に、一番後ろに停めてある荷馬車にこそこそ近寄る。俺は小さいので。腰を屈めて移動すれば、馬車や馬に隠れて団長たちからは姿を確認できないだろう。


 そうして荷馬車に乗り込んだ俺の後から、ユナも身軽な動きで入ってくる。綺麗に積まれた荷物の間を縫って、一番奥の隙間に膝を抱えて座っておく。


『バレたら怒られるぞ』

「バレなきゃ怒られないんだよ」

『なにその前向きな考え。これだからお子様は』


 呆れたと息を吐くユナは、猫のくせに表情豊かだ。静かにしろと注意して、必死に息を殺しておく。やがて馬車が動き出した。作戦成功である。ニマニマする俺に、ユナが冷たい目を向けてきた。ユナだって共犯のくせに。


 馬車が動き出せば、中を覗かれることはない。ホッと足を投げ出して座る。ユナは落ち着きなくきょろきょろしていた。


『ちょっと遊んだらすぐに帰るからね』

「うるさいぞ」

『なんだと!? どうせオリビアにすぐバレるよ』

「バレないもんね」


 俺の作戦は完璧である。あとは素早くクレアの店に行くだけ。店の場所は覚えていないので、発見できるかは運任せだけど。まぁどうにかなるだろう。


 ガヤガヤと人の声が聞こえてきて、街に到着したらしいことがわかる。一応隠れてこっそり外の様子を窺ってみる。今のうちに外に抜け出そうとユナに目配せしたその時であった。


「え!? テオ様!?」


 荷馬車を覆っていた目隠しの布がさっと開いて外の光が差し込んだ。驚きに目を見開く副団長とバッチリ目があってしまった。


「……」


 あれ? なんか見つかってしまった?

 固まる俺に、副団長が険しい顔で「また勝手に乗り込んで!」と叱りつけてくる。

 思わずユナを引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。


 街に行くことばかりを考えていて、あっさり見つかることは想定していなかった。副団長の焦ったような大声に、団長まで「どうした」と寄ってくる。すごくピンチだ。


「えっと。猫が荷馬車に乗り込んじゃって」


 とりあえず全部ユナのせいにしておこう。『おいこら』と半眼になるユナの口を慌てて塞いでおいた。

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