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55 帰ったよ

「ただいまぁ。帰ったよ! 兄上ぇ!」

「うるさい。わかったから」


 帰宅して、俺は真っ先に兄上の部屋に向かう。大声で帰宅を報告すれば、苦い顔をする兄上が「おかえり」と素っ気なく顔を上げた。


「楽しかったのか?」


 仕事を中断して問いかけてくる兄上は、ジロジロと俺に不躾な視線を注いでくる。一体何を見ているのだろうかと考えて、ハッとする。


「兄上。お土産はないよ」


 おそるおそる事実を伝えれば、兄上は「そうか」と短く応える。なにその素っ気ない態度。


 もしかして、お土産ないのがショックなのだろうか。もう一度、お土産買ってくるの忘れた旨を告げれば、「わかったから。そう何度も言う必要はない」と腕を組んでしまう。


「ところで、テオ」

「なに」

「余計なことはしていないだろうな?」


 余計なことってなんだろう。

 覚えがないので、適当にうんうん頷いておく。今日は至って平和なお出かけだった。お目当てだったクレアのパン屋さんを発見できなかったのは悲しいが、それ以外は概ね順調。特に問題ないと教えてあげれば、兄上はようやく安堵するように息を吐いた。


「そうか。よかったな」

「うん! オリビアと遊んで楽しかった」


 また次にお出かけできるようにと、ここぞとばかりに楽しかったアピールをしておく。身振り手振りをまじえて、頑張って楽しかったことを伝えれば、兄上は「そうか」とゆったり頷く。


「今度は兄上も一緒に行っていいよ」

「なんだその上から目線は」


 細かい点を気にする兄上は「はやく着替えてこい」と手を振ってくる。「はーい」と元気に手をあげて、兄上の部屋を後にした。


 廊下に出ると、俺を待ち構えるケイリーがいた。「おかえりなさいませ」と、にっこり微笑むケイリーにもいかにお出かけが楽しかったのか報告する。


 にこにこと俺の話に耳を傾けてくれるケイリーは、そっと俺のことを部屋まで案内する。オリビアたちは、後片付けがあるとかで騎士棟の方に行ってしまった。おそらく副団長たちと色々情報共有するのだろう。


「ポメちゃん!」


 自室の真ん中で、べたっとやる気なく伏せていたポメちゃんに飛びかかる。勢いよく背中に顔を突っ伏せば、『重いんですけど』という苦情が聞こえたような気がした。


 もふもふの毛を、両手でわさわさと撫でまわす。やっぱりでっかいもふもふは最高だ。短い足で俺を追いかけてきたユナが、『あー、疲れた』とわざとらしく伸びをしている。


「ポメちゃんも一緒に来ればよかったのに。楽しかったよ。美味しいもの食べた」

『へー。よかったね』


 適当に相槌を打ってくるでっかいもふもふは、とことんやる気がなかった。なんでこんなにやる気皆無なのだろうか。この無気力で、生きていて楽しいのだろうか。もっと動き回ったほうがハッピーになれると思うのに。


「ポメちゃん。お土産ないよ。ポメちゃんのことすっかり忘れてた」

『シンプルにひどいね』


 せめて存在くらいは覚えておいてほしいなと眉尻を下げるポメちゃん。いそいそと、その背中に上がる俺。


 微かに上下するポメラニアンの上で、俺もうつ伏せになる。あったかくて最高。わしゃわしゃと毛を撫でる。『重い。暑い。やめて』と、ぐだぐだ言うポメちゃんの声が子守唄に聞こえてしまう。うとうとし始める俺であったが、ケイリーに呼ばれて渋々顔を上げる。


 そろそろ夕食の時間である。

 欠伸をひとつこぼして、ポメちゃんからおりる。


「ご飯なにかな」


 美味しいお肉がいいかもしれない。ひとりで考えていると、ちょうど部屋に戻ってきたオリビアが「まだ食べるんですか? お腹いっぱいって言っていませんでしたか?」と呆れたような声を発した。


「帰ってきたらお腹すいた」


 ご飯食べると主張する俺に、いつもの騎士服に着替えたオリビアが「そうですか」と苦笑する。


 眠そうなポメちゃんの頭を、ペシペシ叩いて起こしてみる。むにゃむにゃしているポメちゃんは、なんでこんなに眠そうなんだろうか。俺がいない間、こいつはここでのんびりしていたはずである。


「ぐうたらポメちゃん」

『変なあだ名つけないでよ』

「起きろ! もうすぐご飯だぞ!」

『はいはい』


 やる気なしポメラニアンの頭をペシっと勢いよく叩いて、俺はケイリーの手を借りて身だしなみを整えた。

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