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16 追いかけっこ

 翌朝。

 朝食後、早速ケイリーに虫取り網と鳥籠を持ってこいと命令する。にこやかに応じたケイリーは、すぐに持ってくると言い置いて部屋を出て行った。


 ちっこい鳥は、俺の部屋でおとなしくしていた。どうやらオリビアから、俺と遊んでやれと言われているらしい。口が悪いくせに、主人であるオリビアの言うことはきちんと聞くらしい。


「猫! 猫もこっちに来い!」


 テーブルの上に鳥を乗せて、猫を呼びつける。眠そうな顔をしたユナは、のそのそと露骨に嫌そうな歩みで寄ってくる。


 待ちきれない俺は、ユナの元へと走って行く。そうしてユナを抱えてテーブルに乗っければ、『何これ』と呆れを含んだ声が返ってきた。


 テーブルに並んだ猫と鳥。猫の方が大きい。


 いそいそと、二匹の正面の椅子に腰掛けて見比べる。オリビアの真似をして、グッと眉間に皺を寄せてみる。『何その変な顔』と、ちっこい鳥が狼狽えている。何って、おまえのご主人様の真似だけど。


「今日は追いかけっこして遊ぶぞ」

『あ、それはボクらと?』

「当たり前だろ」


 とぼけた発言をするユナ。ちっこい鳥は、半眼で俺の話を聞いている。口も悪ければ、態度も悪い鳥だな。


「俺が追いかけるから。おまえらは逃げろよ。でも遠くへは逃げたらダメだから。俺が捕まえる役ね。あと捕まえられないと俺がムカつくから、適当なところで捕まってね」

『忖度を強要してくるな』

「うるさいぞ! 猫」


 ペシペシと目の前にいるユナの頭を叩いておく。ちょうどその時、ケイリーが戻ってきた。虫取り網と鳥籠を抱えた彼は、猫と鳥を前にして真剣な顔で話し込む俺を見て、なんだか微笑ましいものでも見るかのように目を細めた。俺が子供だと思って、馬鹿にしているのか。こっちは真面目な話をしているんだぞ。


「ケイリー、はやく!」

「はい」


 彼から虫取り網と鳥籠を受け取る。

 これで準備は整った。


「よし! じゃあ今から十数えるから。その間に逃げろよ」

『その遊び楽しいの?』


 ユナがつまらないことを言ってくるが、無視して進める。鳥もやる気がなかった。テーブルの上で、退屈そうにペタペタと足踏みしている。ケイリーは相変わらず目を細めて、にこにこしている。


「はい! はじめ!」


 目をつむって十数える。その間に、鳥と猫が逃げるはずである。数え終わるなり目を開ければ、部屋にはケイリーひとりだった。きょろきょろと部屋を見まわすが、二匹の姿はどこにもない。


「ケイリー」

「はい、テオ様」

「鳥と猫はどこ?」

「……」


 考えるように黙り込むケイリーは、やがて控えめに苦笑する。


「窓から外に出て行きましたよ」


 ガバリと振り返って窓を確認すれば、大きく開け放たれている。


「……それは反則じゃない?」

「そうなのですか?」


 ピンときていないらしいケイリー。俺が思っていたのは、部屋の中を飛びまわる鳥を虫取り網で確保したり、室内を走りまわる猫をひたすら追いかけることであった。そんな広い範囲を許した覚えはない。


 え、あいつらどこまで逃げたの?

 俺は追いかけっこしようって言ったよな。二匹の行方が不明な中で、追いかけるもなにもない。もはやこれは、かくれんぼだ。


「なんだ、あいつら」


 部屋に取り残された俺は、ケイリーと顔を見合わせた。





「鳥! 猫ぉ。出てこい」


 ひとりで庭に出た俺は、鳥籠と虫取り網を手に、ひたすら二匹を探していた。ケイリーは、仕事があると言ってついてきてはくれなかった。彼は俺の侍従だが、いつ何時も俺に張り付いているわけではない。俺としても、常に見張られるのは息が詰まるから別にいいんだけど。


「猫!」


 大声で呼ぶのだが、一向に出てくる気配がない。適当な時間になったら捕まりにこいと言い聞かせていたのに、全く姿を現す気配がない。嫌な猫と鳥である。


「出てこい鳥! 出てこないと遊んでくれないってオリビアに言いつけてやる!」


 しんと静まり返る庭。俺は一体、何をやっているのだろうか。思っていたのとだいぶ違う展開に嫌気がさしてくる。


「つまんない! こんなのつまんない!」


 わぁっと大声を出すが、やはり誰もやってこない。なんて冷たい奴らだ。ペットのくせに。もしやどさくさに紛れて、俺のところから逃げたのかと疑いたくなる。


 ムシャクシャして、無茶苦茶に虫取り網を振り回す。目標もいないままに、ひたすら頑張って振り回す。そうして肩で大きく息をしていれば、背後から呆れたようなため息が聞こえてきた。


「今度はなんですか、テオ様」


 偉そうにこちらを見下ろしていたのは、今日も今日とて、眉間に深い皺を刻んだオリビアであった。

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