第65話 (不)確実な方法と「えいっ★」
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圧倒的なポイント差で負けていることは明白なものの、家族と地元の友人一同、さらにバイト先の仲間たちが店を臨時に休業してまで駆けつけている手前、とっとと倒れるわけにもいかず、なんとか最終ラウンドのゴングまで持ちこたえたロートルボクサーばりのぐったり加減で僕はほぼ暗転したと言っていい美術準備室の床に体育座りをしていた。
「お、おい! さっきの元気はどうしたんだ! バイスに会いに行くんだろう!」
「……そのつもりだったんスけど……」
ゆらりゆらりと前後に軽く揺れながら、僕は沈鬱をにじませた声で彼女の激励に返答する。
「なんだ! もうあきらめちゃったのかよ! 本当にしょうがないやつだな」
「ええ、僕はしょうがないやつなんです。どうしようもなく、仕方もなく、甲斐性もないやつなんです。やる気を出すなんて洒落たことしてほんとすいませんでした。大絶滅時代を運悪く生き抜いてしまった深海生物みたいにここで実体が生き飽きるまでバイスと二人でエア漫画描いて暮らしていきますから現実世界の皆様へはそのようにお伝えください。本日はお足元の悪い中お越しいただきましてまことにありがとうございましたはなはだ簡単ではございますが以上をもちましてごあいさつと代えさせていただきます草々《そうそう》」
「草々じゃないっ!」
むんずと僕の胸元をつかみあげながら彼女は怒りの声を上げた。
あれほどかわいかった顔立ちがどうしてここまで恐怖を感じるものへと変貌させることができるのでだろうか?
「おい! 本当にあきらめるんじゃないだろうな? これ以上、僕を失望させるようなことはやめてくれ」
失望も絶望もすべて僕が与えたものではなく君が選択した結果によるものなので、そういったことを言われても困るなーという思いが表情に出たらしく、彼女の腕にさらに力が増し、筋肉がプルプルと震えてきた。
「そういえばなんですけれども」
と僕は話を斜め前にそらしてみた。
「ちなみになんですが、君はどのような手順で現実に戻っているのでしょうか?」
「……」
少しでも僕から前向きっぽい発言が出たからだろうか。
彼女はにらみをきかせたままだが僕の胸元から手をはなしてくれた。
「なるほど。僕の方法か。まあ、確かに聞かせておいてもいいだろう」
「よろしくお願いします」
僕は正座になってから、ぱんと両手で太ももを叩いてから頭を下げる。
それを見て彼女は得意げに胸を張った。
目を閉じつつ鼻の穴が開いている。
どうやら僕が頭を下げたことにより気をよくしたらしい。
「僕のやり方だが、基本的には『えいっ★』だ」
「……はい?」
「『えいやっ★』な時もあるが、基本的には『えいっ★』だな、うん」
「今、何のお話をしていたんでしたっけ?」
「だーかーら、現実世界への戻り方だろう」
想像以上に難しい話になってきた気がする。
何より彼女の話の要旨がまったくつかめない。




