第62話 正解発表と悲しい事実
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「もうこれ以上語ることはないよ」
彼女は疲れた声でそう言うと手近のパイプイスを引き寄せて座った。
「バイスは君を殺そうとした。どうしてそんなことをしたのか? 君たちの間にいったい何があったのか? 確執か、怨恨か――。それは誰にもわからない。バイスと君以外には」
「しかし、残念ながら僕は16歳なのでこれから何が起こるのかは皆目わからないんです」
「バイスは高校卒業後も1人で漫画を描き続けていたらしい。アルバイトで食いつなぎながら、たった1人で」
僕にはバイスが1人で漫画を描いている姿がうまく想像できなかった。
ずっと隣で彼が作画するのを見ていたはずなのに不思議だ。
「そのころには君はバイスと疎遠になっていた――とのことだよ。もちろん、それは表面上、外見の話だ。君たちの気持ちがいつ離れたのかなんて傍から見てわかるものじゃない。ひょっとしたら当事者にだってわからないかもしれない。しかし――結末は存在する。バイスは君を殺そうとした」
いつだったか、彼女がバイスに投げかけた問いを思い出した。
人を殺すことになってもバイスは自らの道をつらぬくのだと宣言していた。
バイスはそういう奴だ。
幻ならぬ当人に訊いたって、同じ返事が返ってくることは僕が保障してもいいくらいに。
ならば、彼はそれを実践したのだろうか?
僕を殺してまでして彼は何を手に入れたかったのだろうか?
「動機は単に逆恨みだと思うけどね」
彼女は僕の疑問に少し考えてから答えた。
「彼はおそらく漫画が思うようにいかなかったんだろう。何が原因かはわからないけど、とにかく命を削って描いたものが評価されない――そんな状況が続いていたのではないかな? 一方、君はみるみるうちに成功していく。バイスが心から望んだ商業的作家としての成功、それもとてつもないレベルでの成功譚、サクセスストーリー。その詳細は間違いなくバイスの耳にも入っていただろう。バイスは歪んでいったんだよ。少しずつね」
「ありえないよ。そんなことは」
僕は本気で彼女の発言をあきれ顔で一蹴した。
「よりにもよって、あのバイスが歪むなんてありえない」
自然、つい先ほどまで一緒にいたバイスの横顔を僕は思い出していた。
あのバイスが嫉妬で人を憎むだなんてありえない。
人を妬むひまがあったら一筆でもペンを進め一枚でも多く描くだろう。
世間一般の感情表現で測れるような軽々しい人物ではないのだ。
しかし――と僕は心の中で自らに反駁する。
それでも僕を憎むバイスもきっとバイスなのだろうな、と思う。
想像できないから存在しない、なんてまったく想像力の不足の露呈以外の何物でもあるまい、と。
きっとバイスは僕を恨んでいる。
ここではない、かりそめではない本当に本物の世界で、バイスは僕を妬んで――。
殺したいほどに、僕を憎んでいる。
それは悲しい事実と言えた。
ついさっきまで16歳のバイスと相対していた僕にとって、それはあまりにも受け入れがたい現実だった。




