第61話 最後の思いつきと正解発表
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しかし、例によって僕の思いつきは当たらない。
当たらない星のもとに生まれたのだからあきらめるしかない、と思うくらいに当たらないのだ。
「――いいや、そうじゃないよ」
彼女は僕の的外れな解答に的確な回答をする。
不快感などなく、むしろ小気味いいくらいの調子である。
「では、正解をお願いします」
僕の平伏に彼女はぐっと口を結ぶ。
無理やりな正解発表タイム突入である。
そんな顔になるのも無理はない。
しかし、どうせここまで来たのだ。
ろくでもない現実がそこに待っていたとして、そしてそこから僕らが目をそらし続けたとして、どれほどの意味があるだろう。
後回しにするのにもそれ相応の根性と覚悟が必要であり、僕にはそれらが決定的に欠けているのだ。
「そうだね。確かに知るかぎりを伝えると言った以上黙るべきではないね。知るかぎり、すべてを語ろうじゃないか」
そう言いながら、彼女の顔は苦痛に歪んだ。
「バイスは死んじゃいないよ。生きている」
「それは何より」
僕は少し安堵しながら、より悪い事態を彼女は知っているのだろうなと想像した。
「けど、知ってのとおりバイスは君としばらく会っていない。君による漫画の共同制作の呼びかけに応じる可能性は――とても低いだろう」
それは僕にだってよくわかる。
しかし、それくらいで彼女が先ほど見せたような態度が生まれないであろうこともよくわかっている。
僕の静観を受けて、彼女は深く一度大きくうなずいてから話を続けてくれた。
「もちろん、それ以外にバイスが漫画を描けないのには大きな理由がある。それは君にも関係があることだ」
思わぬ方向からの発言に、心臓の鼓動が瞬間大きくなった。
「僕に何の関係があるんでしょうか? まったく会っていない僕に?」
「いや、実は君はバイスに会ったんだ」
僕はたやすく混乱した。
「えっ? でも、決別してから久しいというお話だったかと記憶しておりますが。いったい、いつの間に僕はバイスと会ったんでしょうか?」
としどろもどろで問うと、彼女は僕の泳ぐ瞳をにらみつつ、冷たく言った。
「君はごく最近彼に会ったんだよ。だからここにいる」
僕はすでに暗闇に支配されている美術準備室を意識した。
冷たく暗い僕の脳内幻想。僕がここにいる理由。
バイスとの邂逅の結末がその理由を生んだのだとしたら、そこを埋めるべき答えを見つけるのは、僕とは言え、そう難しくはなかった。
「――バイスが僕を轢き殺そうとしたのか?」
「そうだ。26歳の君を車で跳ね飛ばしたのは――バイスだ。深夜、大通りの交差点を渡る君に向かって彼はブレーキを踏むことなく突っ込んだ。彼はその場で警察に拘束された。取り調べで自らの容疑を全面的に認めている。明確な殺意をもって事故を起こしたことも含めて、だ。動機に関しては沈黙しているそうだがバイスが君を殺そうとしたことは、まぎれもない事実だ。だから――」
最後は涙声になった彼女の告白は、
「もう君たちは一緒に漫画を描くことはできないんだよ」
という極めて残酷な一言で終わりを告げた。




