第55話 タケオと告白
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ここから先の話は、彼女、武生要の告白だ。
告白、というより、自白、といったほうが近いのかもしれない。
もっとも、それはただの言葉遊びだ。
言葉のイメージによる曲解をできるかぎり排除したのならば、まあ、告白、というほうが無難だろう。
ただそれだけの判断なのだ。
実際、彼女の話を聞き終えても僕は彼女に対しても、彼女のまわりの人間に対しても、世界に対しても――そしてバイスに対してさえも、特に負の感情を抱くことはなかった。
僕はしょせん、怒りや絶望を感じることを拒絶し、そこへの感受性を麻痺させることしか生き残る術を知らない小物なのだ。
これもやむを得ないというか、当然の帰結と言えるだろう。
過度のストレスは、小動物をそれだけで死に至らしめてしまう。
そういうことだ。
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「さて、すべてとはいえ――どこから話そうか。話したらいいものだろうか?」
まるで眼前に大海原が広がっているかのように彼女は遠くを眺めた。
彼女が見つめている情景はここからどれほど離れているのだろうか。
僕には想像もつかなかった。
「とりあえず、『現在位置』を確認しましょうか」
「そうだね。まずはそこから行こう」
彼女は僕に視線を戻してからうなずいた。
「ここを内的世界と呼ぶならば、それに対比して、外の世界――と呼ぼうか。外の世界での君の年齢は、26歳だ。うん、ここにいる内的世界の君は16歳なのだろうから、その君から見れば、外の世界、すなわち『現在位置』は10年後の世界ということになるね」
「10年後から来たというのもあながち嘘ではなかったというわけですか」
「残念ながら僕は嘘が大嫌いでね。その根絶に向けて日々同志と秘密のアジトで本当のことを言い合っているのさ」
「なるほど」
意味のないあいづちを打ってみたが、彼女のほうもそれを必要とはしてないようだった。
少し息を整える間をとってから話を続けた。
「ともあれ、本当の今の君は26歳で、夜道を歩いているところを暴走車に突っ込まれたおかげで、ぼろクズのようになって病院のベットで人間タコ足配線の名をほしいままにしていて、生死の境をさまよい、字義どおり死に瀕している最中だ」
「……何ですって?」
明らかに聞き捨てならない単語をいくつか耳にした。
「死に瀕している? ぼろクズってどういうことですか?」
「順番に行こう」
彼女は手を挙げて僕を制した。
「順番に行こう。そうでないと、全部の説明がおぼつかないんだ」
「そんなに複雑な話なんですか?」
「複雑というか、そうだな。どちらかというと、感情的な部分の話だ。話の筋だけを追えば、感情的な部分でそれを読み違えてしまう可能性がある。よく創作された悲劇を事実のように語ってはいけない。その逆もまたしかり、だ」
「……わかりました」
実のところ理解は及んではいないものの、そう答えるしか僕には手がなかった。
「君は今、死に瀕している。意識を回復する可能性はほぼゼロだ。ほぼ、というのは、言及するまでもなく医師の方便だ。一般的に見て、君は意識を失ったまま一生を終える、と考えてもらって間違いない」
「じゃ、ここは植物人間と化した僕の心の中というわけですか」
「そのとおり。そして、僕は君に会いにやってきた、というわけだ」
「どうして君はわざわざ僕なんかに会いに来たんだろう? ひょっとして、君は僕の婚約者で目覚めるように呼びかけに来たのか、もしくは借金の取立人で金庫の暗証番号を聞き出しにきたのか?」
「ふふふふ。どちらかというと後者が近いかな?」
彼女は手を合わせて口元に当て、片目を閉じて言った。
「僕は君の記憶を見に来たんだ」
「記憶?」
「そう――記憶だ。ここは君が16歳の記憶で作り上げたステージで、それをのぞきに来たというわけだ」




