第51話 嘘つきと妄想
……。
なるほど。
「それはいい突っ込みですねえ」
僕は思わず納得して手を打った。
そう言えばバイスも彼女が嘘をついている可能性について言及していたことを思い出した。
トイレットペーパーの芯のほうが僕より中身が詰まっていると言わざるを得ない。
「確かに君が嘘をついていないことが話の出発点ですから。その可能性についてはほぼほぼ度外視していましたよ!」
「だろう?」
改めて、にっと口角を上げる彼女。
「と言うことは君は嘘をついてるんですか?」
「バカたれか、僕! 嘘なんかつくわけないじゃないか!」
僕の問いに彼女はずんと胸を張って言い返した。
バカたれはどっちだ。
僕は心の中のノートに毛筆でそう大きく書きつけた。
「もう一つの問題は、この僕の存在自体だ」
続けて、彼女は自らの顔面にびっと右手親指を突きつける。
「ここが君の中なら僕はなんだ? 妄想か? なるほど。それも悪くない。しかし、僕は君じゃない。いや、もちろん、実際問題でいえば、10年後の君なんだけど、今の君ではないのだよ。どうしてこんな僕が今の君の脳内にあるのだろう?」
「それも実におっしゃるとおりですね……」
僕は微苦笑を浮かべて腕をかかえる。
吐いた言葉には裏はなく事実僕もそこが気になっていたのだ。
なにせ僕の思いつきなのだから、僕の人生同様に穴だらけなのは想定のど真ん中であった。
それでも薄っぺらな反論をしてみる。
「無意識の産物、と考えれば、まあ会ったこともない、僕の想像を超えた行動をする人物が生成されることもあるかもしれませんけれども、冷静に突っ込まれると――弱いですね。何より僕の妄想ならばもう少し僕の思いどおりになるかと思うんですけどね」
「思いどおりになる……って、いやらしいことを考えているのではあるまいな!!」
彼女は胸の前で腕を組んでから軽蔑を両目に張りつけて僕をにらむ。
僕は思わず首をすくめた。
「ことほどさようにだ、君の主張には無理があるね」
彼女は人差し指をあごにあててうなずきながら言った。
「君が未来に不安を感じる気持ちはもちろん、僕にだってよくわかる。他ならぬ僕にはね。でも、そんなわけのわからない妄想へと逃げ込むのはどうかな? さっきも言ったとおりだ。未来はすでに変わっている。君は君の未来を歩むべきだ。どんな結論を迎えることになってもね。今ここでネタをわるのは簡単さ。でも、きっとそれは君に少なからず影響を与えてしまうだろう。そして、君はいつか聞いたことを後悔する。そして、失敗をそのせいにするようになる。未来を知るってのはそういうことなんだ」
いつの間にか説教をくらってしまっていることに僕はようやく気付いた。
「実に僕的な、狭小で狭義で狭心な認識で、似つかわしいと思ったよ。いや、実に愉快だった!」
愉快な余興だった。彼女はそう付け加えて、話を終わらせた。
実際、それでは彼女は何者で、どういう理屈理論でここにいるのか、という重要な部分については彼女の口から聞くことはできなかった。
今から改めて問い質してもまともに取り合ってくれないだろう。
まあ、それでも別にかまわない。
実のところ、これこれこうなのだ、などという正解を提示されたところで、今僕がぶち当たっている不安は解消されるどころか最悪増幅されるだろうから、僕もここで話を終わらせてしまってもそれほど困らなかった。
困らなかったのだが、このままやりこまれて終わるのも少しばかり癪な気がした。
一度くらいは彼女に、困った顔をさせてやりたいではないか。
なので、もう一つ最後に僕の思いつきを彼女に聞いてもらおうと思い、口火を切った。




