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第45話 移動と解錠

 冬はとうに去りつつあるが、日が落ちるのはまだまだ早い。

 斜陽しゃようによって赤く射抜かれた廊下に漆黒しっこくの影を落としながら、二人は渡り廊下を無言かつ速足はやあしで行く。

 僕はそんな二人にかけるべき言葉を往生際悪おうじょうぎわわるくも慎重に検討しながらついていくといった案配あんばいで、思い切って吹っ切れもせず、一方、二人を置いて帰るわけにもいかず、実際一人舞台袖(ぶたいそで)に取り残された気分であった。

 そんな自重じじゅうに縛られた僕を、二人どころか時も待ってくれず、ものの数分でかの美術準備室があるという美術室の入り口扉前へと到着した。

 バイスがそろりと戸を引くと、幸いなことにすでにそこは無人であった。

「それで、その準備室というのは?」

 そんなバイスの問いを背に彼女は美術室内にいち早く侵入し、机や椅子やイーゼルなどが壁際に整とんされているため特にさえぎるものもない室内をななめに突っ切る。

 バイスと僕が彼女のあとを追うと、彼女は部屋の真ん中辺りでちょうど入口の対角線上の部屋のすみを指さし、

「あそこだよ」

と言う。

 指さされた方向を見ると、確かに扉の上半分だけがちらりとのぞいているのが確認できた。

 その一角には数段の階段が設けられており、その先に美術準備室の扉がけられているようであった。

 わざわざ半地下にしているのはなぜなのだろうか?

 油絵などに使用する薬品の保存のためなのだろうか?

 僕がそんなことを考えていると、彼女とバイスは遅れた僕を置いて扉の前へと到達した。

 最近ペンキが塗り替えられたのか、いやにぬらぬらと表面が光るその白い扉を見ながら、

「鍵はかかっているのか?」

とバイスが彼女に訊いた。

「可能性は高いね」

 彼女はそう答えながらドアノブに手をかける。

 そして、バイスと僕の顔を見てから、ぐっとそれを回して引く。

 ガッと音がして、はたして扉は開かれなかった。

 彼女はくるりと向き直ってから、

「案ずるなかれ」

と軽やかに言うと、胸元からすっと銀色の鍵を取り出した。

 あまつさえ、それを右目の横に当ててウインクなどし始める。

 僕は震わせた人差し指で鍵を指しながら彼女に問う。

「それってまさか?」

「そのまさかなのだよ」

 きいっひっひと彼女はプチ悪魔チックな笑顔で答える。

「美術準備室の鍵さ。コピーしたやつだけれど」

「勝手にコピーなんてしていいんですか?」

「いいわけないじゃないか」

 彼女は僕の問いを一蹴いっしゅうした。

「だがしかし、コピーされたことに誰も気がつかなければ、特に問題はない! なかろう!」

と彼女は胸を張って言い切った。

「まあ、それをどうやって入手したのかは聞かないが」

 腕組みを崩さぬまま、バイスは首をわずかにかしげながらそう言った。

「いやに準備がいいじゃないか? まるでこうなることを予測していたかのようだな」

「おほめにあずかり光栄なのだよ」

 口角を上げての得意顔である。

「もっとも、こうなることをちゃんと予測していた、というわけでもないのだけどね」

 そう言ってから、彼女はこちんと扉の鍵をたやすく開けた。

 当たり前のことではあるが、なぜか興奮して手を叩いてしまう僕。

 彼女はそんな僕に一種冷ややかな表情を見せながら用の済んだ鍵をちゃらりと胸ポケットへとしまった。

 そして、ドアノブに手をかけて、

「さ、じゃあ、行くよ」

と僕らに向かってやや硬い声で言った。

 僕はバイスの顔を見やる。

 バイスはその僕をちらと見てから彼女にうなずいた。

 彼女はそれを受けて、ぐっと手に力を込めて、美術準備室の扉を開いた。

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