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第44話 隠れ家と移動

「それから、作画作業の件でしたっけ?」

「バイスの計算では、どうも2人では間に合わないらしい」

と僕が彼女の発言を受けてあげると彼女は鷹揚おうようにうなずいた。

「どうしても2人で手が足りないというのであれば、僕が手伝おう!!」

「えっ!?」

と不思議な顔でハモる僕らを尻目に彼女は例によって得意げに腕組みしながら、

「まあ確かにしばし筆から遠ざかってはいるがね! けど、やればすぐに思い出すさ。昔取った杵柄きねづかというやつなのだよ!」

と言うやいなや、ぐわっはっはなどと再びだみ声で豪快に笑い飛ばす。

 まあ、確かにもし仮に彼女が僕であるならば、いないよりはまし程度の働きは期待できるだろう。

 自分で言うのも情けないことだが、冷静に力量をかんがみればそのような表現ができるだけでも上出来じょうできだ。

「――本当にできるのか?」

とバイスが口をはさむが彼女は意にも介さず、

「タケオと同レベルと思っていただいて結構だ! その方向で、バイス、自由に計算してくれたまえ。どうしてもご不安ならば今ここで枠線でも引いてみせようか?」

とやり返す。

 バイスが脳内の計算に戻るやぐるりと僕を振り返り、彼女はすささささと両手をショウジョウバエのごとくすり合わせると、

「楽しくなってきたねえ、僕! とっても楽しみだよ」

「ご満悦まんえつのところを大変恐縮きょうしゅくですが」

 僕はとにもかくにも気になる点について質問せざるを得なかった。

「第三点目の件について――がまだなのですが。本日の作業について家族にどのようにご報告すればよろしいでしょうか?」

 実際の作業場所や作業内容について、基本的には流されるまましかない僕ではあったが、ことこの一点については主体性を発揮せざるを得ない。

 僕のほのかな人生がかかっているのだ。

 彼女は僕の言葉に深々とうなずいてから、

「それはあきらめろ!」

と端的に告げる。

 聞き間違いかと5秒ほど静止するも、どうやら回答が完結したらしいことを知り、あわててバイスを振り返ると彼は、

「それはもういいだろ」

と大同小異な回答を僕に突き付ける。

 僕は恐らく周囲が動揺するほどの情けない表情でもう一度彼女の顔を見やる。

「まあ、捜索願いは出されない程度に連絡だけは入れておくんだよ? 詳しいことは語らずに用件だけ伝えて電話を切ったら電源オフ。――できるよね?」

 にこりともせず彼女は早口で僕にそう告げる。

 それを聞いてバイスも、

「私の名前は出しても構わんが、くれぐれも尻尾しっぽは出すな」

とうまいことを言うので一人手を打ち笑っていると二人は顔を突き合わせながら、

「ともかく一度現場へ行ってみよう。今ならばまだ校内をうろついていてもとがめられない時間帯だ」

「そうだね! でも、急いだほうがいいよ。不測の事態にまで備えることを考えるとそれほど猶予ゆうよはないと思ったほうがいいだろう」

 などと声を掛け合いながらとっとと廊下へと歩みを進めるので、僕も曖昧あいまいな笑いを顔に張り付けながらどうにかその足跡を追う。

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