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第43話 岐路と隠れ家

 僕は気持ち不安げな声で彼女に合いの手をいれる。

「詳しい話を聞かせてもらわないと、僕らは返事らしい返事もできないですよ」

 僕はバイスの手前やや慎重な素振りを見せながらも彼女の発言への興味を隠せず、ずいと身を乗り出す。

 それを見て彼女はぱちんと一度自らの眼前で手を打ってから、

「失礼。ついつい、僕が僕でありつつ僕でないということを失念してしまう。これもそれも僕の未熟ゆえご寛如かんにょたまわれれば深甚しんじんだ」

殊勝しゅしょうな発言をする。

 バイスは肩をすくめる。

 とうに彼も彼女のこのような発言の真意――すなわち、おためごかしであることを見抜いてしまっている。

 そんな僕らのなかば冷め切った目線にも、彼女は舌をぺろりと出す程度でごまかしてからようやくにして妙案とやらの中身を語り始めた。

「では説明しよう! まずは場所なのだが、美術準備室を利用する!!」

「美術準備室?」

 声を発しながら僕はバイスを振り返る。

 目があった瞬間に、彼は静かに横に首を振り、そういった教室を把握していないことを伝えてきた。

「君たちは半信半疑のようだが」

 彼女は机を爪でリズミカルに叩きながら僕らに言った。

「僕はここで3年間を過ごした経験があるのだ。1年生の君たちよりもこの校舎のことに詳しいのは当たり前。君たちの知らないことだって知っていて何の不思議もないだろう?」

「まあ、確かに」

 彼女の得意げなトークに対して僕は下手したでに出ることにした。

「おっしゃるとおりですね」

 念入りに揉み手をくわえて見る。

 彼女もまんざらでもない表情を見せる。

 簡単に調子に乗るところなど実に僕らしい。

「しかし、君たちが気付かないのも無理はない。実際、3年間を過ごしても美術準備室の存在を知っている人間の方が少ないはずだ。なにしろ、美術準備室は美術室の地下にある!!」

「地下?」

 興味なさそうな素振りをしていたバイスが思わず口をはさむ。

 彼女は僕の頭越しにバイスの表情を望みながら、

「そうだ! 地下なんだよ。厳密には半地下というやつでね!」

とうれしそうに話を続ける。

「実際は美術の道具をしまっておくための密閉性の高い倉庫なのだが中はだいぶ余裕がある。それほど広いわけでもないが、扉を閉めて壁の上部にある小窓を何かでおおってしまえば光がもれることもなく、よほどの物音を立てなければ気付かれることもない空間のできあがり、というわけだ! これほどの物件がすぐそばにあるなんて、偶然以上だと思わないか?」

「作業可能な机は置いてあるのか?」

 バイスが口元に手を当てたまま、実務レベルの話を詰め始める。

 10年後の僕は極上の笑みを絶やさずに彼の目の前に歩み寄る。

「長机が2つ備えられていたはずだ――もちろん確認してみる必要はあるが」

 この彼女の発言を聞くとバイスは素早く脳裏に計算をひらめかせる。

 悪くない流れに僕の声も思わずはずんだ。

「何とかなりそうじゃないか! バイス!」

「はしゃぐにはまだ早いぞ」

 見た目、心の動きはおくびにも出さず、さりとて眼光はきらめかせながら、バイスは彼女に話の続きを顔のわずかな動きでうながした。

 それを見て、待ってましたとばかりに彼女はさらに言葉を実に楽しそうにつむいでいく。

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