第42話 妙案と岐路
僕とバイスは彼女の発言を各自で噛み砕いてから、顔を見合わせた。
バイスは渋面だったが、僕のほうは彼女の言葉に活路を見出して晴れやかな表情であった。
「バイス、どう思う?」
「どう思うって」
僕の問いにバイスは語尾をにごらせる。
思わぬ僕のいい顔にややたじろいだという体であった。
しかし、先の彼女の発言に対しては僕ですら即座にいくつかの問題点を見出したのだ。
バイスがそれらとそれ以上の問題点に至るまでには数瞬を待たなかった。
「第一に、学校で徹夜作業というがどこでするんだ?」
バイスの切り口は僕の予見と同じ角度から入ってきた。
校舎内に教員や職員、用務員から警備員までの目を盗み、一夜を忍べるような空間を僕はもちろんバイスも知らなかった。
「第二点に」
バイスの追求の手にはよどみというものがない。
あきれ顔で彼女に向かって滔々《とうとう》と理を説くばかりである。
「作業量として一晩でどうにかなるレベルではない」
これに関して僕は明晰な分析を持ち合わせていないゆえに、素直にバイスの言を支持せねばなるまい。
おそらく――と言葉をはさむだけでも失礼にあたるかもしれないが――バイスの計算は的確で実際僕らの作業量では間に合わないのだろう。
「第三は、おいそれと僕らは一日家をあける事のできる立場にはない」
バイスの家庭事情は詳しくはしらないが、僕の家庭ならば僕が一日帰ってこなかったら相当面倒なことになるであろう。
面倒なことになるとはすなわち、僕が一体どのような生活を日々送っているのかに関して家族や教職員が必要以上の興味を抱いてしまうということを指している。
これまで僕は世間的には従順で純朴であることを旨とし、言われたことを基本受け入れながら心のわずかな平穏を維持することに腐心するというアングローバリズムの最たる人生を適切に消費してきたわけで、そのバランスを大きく揺り動かすような事態に自らを置くことに対しては慎重にならざるを得ない。
しかし、たとえばそれが親友との大切な約束を裏切る結果になろうとも自らの平穏を選び取るべきなのかどうか?
正直そのような岐路に立たされたことがないのでよくわからなかった。
「なんだ、そんなことか」
彼女はバイスの言説を受けながらも、事も無げに言ってのける。
この自信ないし過信は果たしてどこからやってくるのだろうか。
水平線の向こうからだろうか。
彼女はからりと笑いながら、
「これは、そこまでを加味しての妙案であるのだ」
とつとめて明るく彼女は述べる。




