第36話 答え合わせと僕らの未来
「確かめる方法があるんですか?」
「いくらでもあるさ。例えば、自殺してみるとか」
「……本気で言ってる?」
「確かめる方法はある、というだけさ」
にこりと邪気なく笑うバイス。
「彼女の正体について何か心当たりがあるってこと?」
僕からの質問にバイスは目を細めた。
「なくはない」
「お聞かせ願えませんでしょうか?」
僕は手品のタネを聞くくらいの気持ちですかさずバイスに問いを重ねた。
バイスは真面目な顔になって僕を真正面から見つめた。
「ここでそれを開陳するのはたやすいが、まあ、やはり得策ではないだろうな」
「もったいぶるね。僕はもうギブだよ」
「見飽きて聞き飽きたよ、そんな弱音は」
確かに、僕はいつ「FREEZE!」と声をかけられても平気なように、あらかじめ諸手を挙げているような人間である。
なので、確たる反論もなくしわしわとしぼんでいると、
「別にもったいぶっているわけでもないし意地悪をしているわけでもない」
とバイスがフォローを送ってきた。
「私が彼女の正体に言及しても、ある意味無益なのだ。これは間違いなく、タケオの問題だからね」
「僕の?」
「そうさ。徹頭徹尾、君にまつわる君の問題さ。君が彼女の正体にたどり着くことに意味がある」
「ということはつまり、バイスはやっぱり彼女が何者か知ってるのか?」
「君もだよ、タケオ」
バイスは飲み干したカップの底を見ながら僕にそう言った。
「君も知っている」
僕は短いセンテンスで簡単に混乱する。
「僕が彼女を知っている? だとしたら僕の記憶は当てにならないにもほどがある。僕はタケオで君はバイスで間違いない?」
「もちろんさ。それについては、僕が請け負うよ」
「ヒントだけでもいただけません?」
往生際での滞在時間の長さには定評のある僕である。
「ヒントはさっきも言ったとおりだ。疑う相手を間違うなよ。そして、次に彼女に会ったらそこが勝負だ。彼女は嘘をついている。その嘘を暴く方法を考えるんだ」
「嘘?」
「嘘さ。虚構だ。彼女は僕らをだましている」
まるでわからない。
のどが渇いている。
もっとも、それほど真剣に問題に取り組んでいないことも事実なので、さてこの渇きを潤すべく次はドリンクバーで何を飲もうか、と言う部分に関心は移行していた。
「バイスと彼女がグルだっていう結論でいいような気がしてきたよ」
僕がコップを持って立ち上がりながらおどけた調子でそう言うと、
「それも悪くないな」
とバイスは目を閉じてほほえんだ。
結局、この日はこのような、進展したようでそうでもないような基本的には不毛な会話ばかりで終わった。
「個人的には有意義だったがね」
バイスは店を出て、うんと伸びをしながら僕にそう言った。しかし、僕はドリンクを飲みすぎたせいで気分が悪くなっておりそれどころではなかった。
「ま、いずれにしても、だ。次の原稿をとっとと終わらせてしまうじゃないか。僕らの未来はそこから先にしか続いていないのだからな。そうだろう?」
「その先に陸地が続いていればいいんだけど」
僕はこみ上げる何かをようやく押しとどめながら、バイスのセリフにつっこみを入れるので精いっぱいだった。




