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第35話 推理と答え合わせ

 バイスは乾いた声で訊いてきた。

「知らなかった?」

「そう。あんまんを食べたことがあるのかないのか。僕はそのチェック欄のいずれにもチェックを入れていなかったんだ。意識したことがまったくなかったと断言できる。僕の肉まんへの愛情はそれほど強く深い」

「親の仇はどこ行った。――それはさておき。つまりは、彼女は君自身も知らないことを知っていた、ということか?」

「そうだね。さあさあ、これはどう解釈するべきだろう?彼女は僕らしか知りえないことを知りすぎているように思える。さらに、僕本人すら知らないことも知っているのだとするとこれは相当にややこしい話になるね。これについての理論的かつ客観的な説明をいただきたい」

「それについては、有力な腹案がある」

 バイスは自信みなぎる口調を取り戻して即座に返してくる。

「この話自体がエキストラまで投入した私に対する壮大なドッキリであるという説だ。そろそろタネを割ったらどうだ?」

「本気でそう思っているのかい?」

 僕はいぶかしさを全面に押し出した表情でバイスの横車よこぐるまに応戦する。

「盗聴器を仕掛けて情報を窃取せっしゅし、僕のパートナーに成り代わろうとしているという君の説も完全に捨てていないけどもね。いやさ、あんまんの件まで考慮に入れるならば、僕らは一度彼女の所属する謎の組織に拉致されて最先端の機械で脳内を完全トレースされてしまっているという可能性も高い」

 カチとメガネを軽く持ち上げてからバイスはとぼけた表情でいなす。

「少しばかり、漫画の読みすぎじゃないかい、バイス?」

「褒め言葉だな。ありがとう」

 バイスはにこりと笑った。

「だがまあ、あんまんの件は大した矛盾ではないな」

「と、言うと?」

「なぜ彼女はタケオしか知らないことを知っているのか。答え①、彼女がタケオだから。答え②、彼女がタケオの脳内を覗いたから。答え③、奇跡的な偶然がそこに作用したから。答え④、君がきれいさっぱり忘れているだけでどこかであんまんを食べたことがないことを吹聴したことがあるから。さあ、どれがお好みだ?」

「なるほど」

 誰でもすぐに思いつくであろういくつかの可能性を目の前に提示されて、僕はようやく頭を動かし始める。

「じゃあ、答えはきっと④かな。僕は自分の記憶に自信なんか一つもないし」

「あっさりと自説をひるがえしてくれるなあ。まあ、それはいいが」

 バイスは眉をひそめた。

「確かに彼女は僕らのことをよく知っているようだ。漫画の投稿先の件も、④でなければ、説明は難しいぞ」

「それと、あとは地縛霊の件もあるか」

「地縛霊の件?」

 僕はバイスに以前に衝突した地縛霊と彼女が同一人物にしか思えないことを告げた。

「――そう言えばそんなこともあったな。君と衝突して消えた謎の地縛霊。その直後に現れたその地縛霊にそっくりの女。しかも、彼女は自称10年後のタケオだと名乗ったわけだ」

 バイスはそう言いながら、眉間に人差し指を置いてうなずいた。

「とすると、これは地縛霊と言うよりも生霊?になるのか。ふん。ならば彼女は霊体になって僕らをストーキングして回っているのかな?それならば、投稿先の件もあんまんの件も片がつくぞ」

 意味不明さにいらだったのか、少しばかりバイスが投げやりな口調になる。

「幽霊は存在するのかな? タケオ」

「そんなものいるわけないじゃないか」

 僕は即座に否定する。

 否定、拒否、敬遠は僕の十八番である。

「そんなものが存在を許されるならば、その存在を許したこの世界のほうが間違ってるってことじゃない?」

「大きく出たじゃないか。だが、悪い考えじゃないぞ」

 バイスは身を乗り出した。

「彼女の存在が矛盾をはらんでいるのは間違いない。しかし、その矛盾を彼女の内部に求めるとかえってヤケドするぞ。彼女が矛盾を抱えながらこの世界に存在を許されたとするならば、間違っているのは、タケオのいうとおり、この世界のほうだ、ということになる」

「けど、そんなの確かめようがない」

 よしんばバイスの言うとおり世界が歪んでいたとして、それを観測できるのだろうか。

「そうでもないさ」

 バイスは平気な顔でコーヒーをすすった。

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