第34話 お誘いと推理
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バイスが僕を引き連れてやってきたのは、駅前のファミレスだった。
手慣れた様子で一番奥の席を押さえるバイスのその一方で、めったにこのような場所にこない僕は、借りてきた雌鶏のような落ち着きのなさを見せていた。
「おとなしく座ったらどうだ」
「了解了解! いやー、なるほどー!」
と言いながら、メニューを表から裏まで眺めたりする僕にバイスは真剣に眉をひそめていた。
その後、観光名所でも訪れたようなテンションでドリンクバーでオレンジジュースを注いできて、きゃあきゃあ言いながら5杯も飲みなどしていると、ますますバイスはかわいそうな子を見るような目で僕を見ていた。
「まあ、楽しそうで誘ったかいがあったよ」
ホットコーヒーをつまらなそうにすすりながらバイスは僕の行状に感想を述べた。
「それではそろそろ本題に入ろうか」
ようやく興奮が冷めてきた僕は、バイスの提案にうなずいた。
「彼女の正体について正解を得るには、まずは彼女が何者であるかをしっかりと考察しなくてはなるまい」
「そうだね」
「僕らが探検隊であるならば、まずは目的地を設定する必要がある。どこかにある何かを探しにやみくもに森に飛び込むのは自殺行為だ。ここまではいいかな?」
「いいよ」
「よろしい。――ではタケオ、まずは君の見解をうかがおう。彼女は何者だ?」
僕は腕組みをして答えた。
「やっぱり彼女は10年後から来た僕なんじゃないかな、と思うんですよ」
「しかし、それは考えにくいぞ」
バイスは適切に反論してきた。
このへんのやりとりは、2人で漫画のストーリーを考えることで培われた呼吸があった。
ストーリーは片方が伸ばし、片方が折り、2人で叩いて作られていくのだ。
「まずは、10年後から来たという物理法則を無視した発言が納得できない。仮にそれを飲んだとしても見かけがかけ離れてすぎている。――性別まで変わるのはやりすぎだ。彼女と君は別人だよ。君が好んで食している肉まんを賭けてもいい」
確かに徹頭徹尾おっしゃるとおり。
むしろ僕の言いたいことを述べていただいて感謝したいくらいであるのだが。
「そこなんだよ、バイス」
「そこってどこだ、タケオ?」
「彼女は僕にあんまんをおごってくれたんだ」
突然の僕の話の転換にバイスは眉間にしわを寄せた。
「あんまんを? それがどうしたんだ」
「実はね、バイス。僕は肉まんは親の仇のように食しているけれどもあんまんはその時に生まれて初めて食べたんだ」
「君の肉まんに対する謎の愛憎は一度総括しておいたほうがよさそうだな」
僕は肩をすくめる。
「――で、彼女にも言われたけど、あれも乙なもんだね。これからたまに食べてもいいかなって思ったよ。そして、問題は僕がその時初めてあんまんを食べたってことを彼女が知っていたことなんだ」
「ふん。なるほど。彼女がそれを知っていたから、と言いたいのか。しかし、それくらいなら私にだって想像はできるぞ。君が肉まんばかり食っていることは君と3日も付き合えば容易に知れる」
ひどい言いざまだけど、それが事実なことに慄然とする。
「だけどね、バイス。ここから先が重要なんだけどね」
少し芝居がかって、くいっと薄まったオレンジジュースを飲み干してから、次のセリフを言った。
「僕は自分があんまんを食べたことがないことを昨日まで知らなかったんだよ」
バイスの笑顔が凍った。
コップの中で溶けた氷が、カランと音を立てた。




