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第29話 恋心と紙の束

 仮に彼女の言を真に受けたとしても、時空を隔てて僕と彼女は別人である。

 そのことはよくよくわかっているはずなのに、どうしてか僕までどぎまぎとしたうえに赤面までしてしまった。

 バイスと2人、ダブル赤面である。

「投稿先の件について話をしようか」

 バイスは扉を見たまま、落ち着いた口調で切り出してきた。

 それに対する僕の答えの選択肢はなかった。

「消力社で、いいんじゃないかな?」

 と僕が自分の心情を無鉄砲に発言すると、バイスは肩をわずかに揺らした。

 微笑か、それとも苦笑か。

 わからなかったが、くるりと振り返った時にはいつものバイスに戻っていた。

「もし運命というものがあるのだとしても」

 バイスは机に置きっぱなしにしていた自分のカバンから紙の束を取り出した。

 それはバイスが第2作目の作成を始めて以来描きためていたプロットやネームであった。

「いくらでも変えることができるのならば」

 カバンから何度かにわけてそれらを取り出しながら、バイスは明るい声で続ける。

 僕に見せてくれた分よりもずいぶん量が多い。

 おそらく、僕に見せてくれたのはほんの一部でバイスはその何倍もの量を作り上げながら自ら採用を見送ってきたのだろう。

 バイスはそんなちょっとした量の紙の束を眺めて、

「僕らにとってはたいして意味がない!」

と言ってから、やおらそれらを乱暴に持ち上げると、端からばさりばさりと破り始めた。

 たちまち足元に白い紙片が山と舞い落ち、バイスの足元周辺が白色に染まっていく。

 僕が驚愕で目と口を限界まで開くと、いたずらを完遂した子供のような笑顔でバイスは、

「タケオのそんな顔、初めて見たよ」

 と言いながら、手は止まらずにバイスはここまで進めた膨大の作業の成果をスピーディに消滅させていく。

「な、何もそこまで」

と僕は虫が叫ぶような声で苦言を呈すもバイスは意にも介さない。

 すばやくすべてを破り捨ててからバイスは、

「さて、始めようか。タケオ。僕らにも時間はあまりない」

と言って新しい紙を手にした。

 どこまでも白く、何一つ描かれていないそこにはすべての可能性が踊っていた。

 すでに消力社の新人賞の締め切りまでは3ヵ月を切っている。

 今まで作り上げてきたものを、何の因果かぶん投げてしまったバイスに言いたいことは山ほどあった。

 何なら床に散乱している紙片をセロテープでつなげ直す作業に時間をかけてもいいのではないかと真剣に考えたが、バイスの冗談みたいにキラキラした瞳を見て、そういった気分も霧散してしまう。

 まったく、彼女は実際ろくなことをしない。

 僕はやれやれと心底嘆息するしかなかった。

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