第27話 混沌と消失
しかし、ここで僕が踏ん張らなくては収まりがつかないことは間違いない。
ここで粉骨砕身の努力を見せなくては男子一生の名折れ、とらしからぬ決意をして思い直した。
しかし、特に良策もない。
僕にできることは、字義どおりに「ぶん投げる」ことのみである。
ということで、えいやと部屋の片隅に向けて手荷物状の2名をぶん投げてみると、彼ら彼女らは適度に混ざり合いながら仲良く床をすべっていき、壁に衝突した後に静かになった。
「落ち着いてください、お二人さん」
と、僕がそっと話しかけた頃には、一時的に取り乱していた2人は冷静さを取り戻していた。
お互いに手を差し伸べあって立ち上がると、無言で元いた位置へと無駄のない動きで戻ってきた。
2人の頭部にたんこぶができた以外は元の状況になったわけである。
「投稿先の件はタケオともう一度話し合う」
何事もなかったように、バイスは宣言した。
「だが、決めるのは私とタケオだ。その最終的な決定に口出しはご遠慮いただこう。それでいいか?」
最後の言葉は彼女というより、僕に向けて言った気がしたので、彼女同様、僕もバイスにうなずき返した。
「もちろん、それでいい。どうかよろしくよしなに頼む」
彼女は、僕らに向けてにこやかにそう言った。
「うん、ああ」
キャラクターに似合わず、どぎまぎとした口調になるバイスを見て、実際問題本当に投稿先が変更されるのかどうかはわからなかったが、バイスが10年後の僕のペースに最終的には相当程度はまりかけたのがわかった。
それから、バイスにわからないように僕にだけペロリと舌を出す彼女を見て、ため息をついた。
なんで彼女のためにここまでしなければならないのだろうか。
いや、『僕』だからか。
よくわからなくなってきた。
「ああっ! もうこんな時間じゃないかっ!」
思い出したかのように突然彼女は時計をちらとも見ずに大声を出す。
あわあわあわ、などと不明瞭な叫びを発しながら、ひとしきり右往左往した後に、
「ほんじゃ今日はこのくらいで。そいじゃ、またねっ!」
と挨拶もそこそこに彼女は出口へと向かう。
昨日同様、とにかく時間というものに追われっぱなしのご様子であった。
からりと扉を開けて境界をまたぐ瞬間、彼女は髪を盛大になびかせながら振り返った。
また捨てゼリフでも吐くのか、というその機先を制してバイスが、
「本当に、また来るんだな?」
と問うと、彼女はうっとつんのめってから弾けるように笑って、
「もちろんだよ! バイス!」
と言った。
かげもくもりもひねりもない、最上の笑顔であった。
「君たちにして見れば長い時間かもしれないが、僕にして見れば、ほんの一瞬だ。いついつとお約束できないのは心苦しいが、ご安心召されいっ!」
どんとそこで彼女は拳で胸を打つ。
「僕は必ずまた来るよん♪」
そう言って彼女は境界を越えて向こう側へ渡る。
それから音もなく、扉が閉められた。
バイスが素早く動き、間髪入れずにがらりと扉を開け放つが、すでに彼女の姿はどこにもなかった。
そのわずかな時間で、音もたてずに廊下の先の角まで行くにはかなり無理があると思われた。
バイスはそのままの姿勢で二度ほど廊下を眺め渡すと扉をガラリと閉めた。
「行ってしまったようだな」
ひとり言に近い調子のつぶやきに、返答していいものなのかどうかためらわれたが、聞こえてしまったのでつい、
「そうだね」
とだけ簡単に答えた。




