第26話 決意と混沌
「しっかし、どーしたもんかねー! まー確かにいきなり来て変更しろってんじゃさー、納得いかないのもわかっけどー、じゃあどーしたらいいんすかねー!」
などとやけっぱちな口調とぶんむくれた声で、机の上にどっかと両足を乗せ、ぎっこぎっこと船を漕ぐ。
なんという行儀の悪さだ。
「足を下ろしたまえ」
バイスが見かねて声をかけるが、彼女はふんぞり返っては鳴らぬ口笛を吹いての素知らぬ顔である。
あまりの素行の悪さにいたたまれなさを感じた僕は助け舟を出してみた。
「バイス、あの時も言ったけど僕は本当にどっちでもいいんだ」
この言葉を聞いて、む、とバイスは唇を少し突き出して困り顔になる。
二人で決めたことだから変更しないという前提を覆してしまうわけだから、バイスの立つ瀬を奪う形になってしまうわけで、困惑させてしまうのも無理がなかった。
「そうかい! 僕! さすが! いいこと言うじゃない!」
ふてくされ状態から回復し、如実にご機嫌になる我が未来。
そのあまりの安っぽさに暗欝な気分になり、さっそく後悔が胸に押し寄せた。
「タケオ。悪いが、その件に関してはここで言いっこなしだ」
バイスは首の辺りに力を込めてそう言った。
こちらの機嫌は斜めに下って底無しである。
「ど、どうして?」
「僕らの問題を第三者に聞かせる筋合いはない」
ちらりと僕を横目で見やるバイス。
少し白目が多めの配分になっている。
内心は怒りに満ちているものと想像できた。
うへえ、とさっそく萎縮する僕。
しかし、僕が語ることを選択すれば、バイスはそれに異は唱えても、とめることはできないだろうと思い、とりあえず後先考えずに話を続ける。
なに、言い出したことを途中でやめる気持ち悪さを享受できる度量がない、というだけの話でもあるのだ。
「世間的にはたいした選択でないとバイスが言うのならば、それこそ変更しても問題ないんじゃない? 引き受ける云々の話にしたって、変更したことまで僕らが責任を取ればいいだけの話だし。それに」
何か言いたげなバイスがぱくぱくと口を動かすも音声を発しないことを確認して僕はさらに続けた。
「バイスは元々消力社がよかったわけだからそのほうがよくない?」
リバーシよろしく、つるりつるりとバイスの発言をひっくり返してしまう。
僕の顔面のすぐ脇で彼女がうんうんと鼻息荒く頷いている。
ちょっとした助け舟どころか、ひょっとしてこれは相当にバイスの痛いところをついてしまったのでなかろうか。
不安を覚えてバイスの様子をうかがうと、彼は歯痛をこらえる幼稚園児みたいな顔をして、
「だめだ。変更はしない」
と言い切った。
「なんでー!」
バイスの論理なき否定に、彼女がすかさず噛み付く。
形勢逆転だ!
――もっとも、僕が起こした逆転劇ではあるのだが。
バイスは彼女を噛み付かせたまま、僕に向き直って言った。
「まったく、どうして急にそんなことを言い出すんだ、タケオ」
どうしてだろう?
まったくわからない。
本当にわからない。
強いて言えば、彼女の外見が僕の好みのタイプであるが、それ以上は僕にもわからない。
自らの心の深淵に潜む闇をのぞきこんだ気がした。
「僕に不満でもあるのか?」
思いのほか落ち込んだ声でバイスが僕にそのようなことを問い質し始めたので、ようやくにして、ひょっとしたら開けてはいけないボックスを開けてしまったのかもしれない事実に気がついた。
そんな僕の横で、彼女が、
「うぉおい! そんなことより僕! 投稿先は結局どうするんだ! もう決めちゃおうよ!」
と言いながら、僕の腕をつかんではガクガクと揺さぶってくる。
その一方では、
「なあ、タケオ、言いたいことがあるならこの際言ってくれないか! パートナーとして!」
とバイスはなおも僕に切ない表情で詰め寄り、彼女と逆の僕の腕を取って放さない。
僕は両耳からそれぞれ別の案件を投げ込まれて、その場で体を二つ以上に分かちたくなる。
片手にバイス、片手に十年後の僕をぶら下げたまま崖から飛び降りてしまったら、どんなに爽快だろう。




