第23話 再登場と初対面
彼女は騒々しい登場から一転して石のように押し黙っている。
積極的な話題提供をしなくては、と脳をフル回転させて模索するも思いつかない。
そんな馬鹿な、と愕然とするも、頭を逆さに振ってもろくな話題が思いつかないのである。
自らの引き出しの少なさに改めて絶望しつつも沈黙に耐え切れず、僕は口を開いた。
「あのう、例の新人賞の原稿の投稿先の件なんですけど」
恐る恐ると切り出したのだが、それに対して返ってきたのは、
「へ?」
という薄い反応であった。
まさか、この女、昨日の今日の、またはさっきまでの会話をきれいさっぱり忘れておるのではなかろうか、という恐怖に似た感情が僕を襲った。が、
「あーあーあー、はいはい。あれね、漫画ね、はい」
などと言ったリアクションによって、記憶回路はつながっていたことが確認された。
「うまくいったっしょ?」
「それが、見事にバイスの説得に失敗しまして」
あっはっはーなどと存外明るく失敗を報告してみる。
こういう時は大事ではないように振舞うに限る。
僕は膝を打ちながら話を続けてみた。
「それはもう、取り付く島もない有様で」
「えーーーやーだー!」
「というわけで、予定どおりに応募先は甚大社ということで」
「もーーほんとにーー?」
会談は笑いに包まれたまま和やかに終了したのだが、彼女の目は座っていた。
その座り具合から見て、自らのミスを申告するタイミングを見誤ったことは明らかであった。
「って、こーらーっ★」
字面だけ見れば、軽く小突かれる程度のシーンしか想像がつかないセリフであったが、実際は彼女の右手が僕の首を締め上げるシーンでのセリフだった。
血流と呼吸が同時に人体の九合目付近でUターンを余儀なくされ、声なき声を5次元辺りに轟かせながら、僕は一人でもがき続けた。
「しっかりしてよ、僕! 頼りにしてるんだからっ!」
がちりと僕ののど輪をとらえた剛腕は押そうが引こうがびくともしない。
こんな細腕に、どこにこれだけの力が秘められているのだろうか、とか、ここで僕が死んでしまったら彼女も消滅するのだろうか、とか考えながら死に瀕していると、唐突にがらりと扉が開いた。
「……殺し合いは時間の無駄だぞ」
呆れたようにかぶりを振りながら、彼はそうとだけ言った。
人が殺されかけているというめったにない場面に遭遇してもなおバイスはバイスであった。




