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第22話 雑談と再登場

 それから自分のバッグを机にあげ、その中に手をつっこみながら、

「その件については放っておこう。どのみち向こうのアクションがあるまで僕らにできることはない。ならば気にするだけ時間の無駄だ」

と言う。

 実際何事も解決はなされていないが、ひとまず彼女との義理は果たせたように思われたので、僕は同意を告げる。

 それを見て薄く笑ってからバイスはなおもバッグを探っていたが、

「すまん。昨日買った原稿用紙を教室に置いてきてしまったようだ。ちょっと取ってくる」

と言い残して立ち上がると、バイスは薄暗い廊下へと姿を消した。

 地学準備室は校内でも辺境にあり、一人になってしまうと人類が滅び去ったかのように静かになる。先ほどまでバイスが立っていた窓を眺めれば、向こうで夕日が地平線へと押し込められ真っ赤になって耐えているのが見えた。

 僕はぶるりと体が震えるような感覚を覚え、首をすくめてバイスの帰りを待つ。

 先ほど遠ざかっていった足音を思い出していると、再びかつかつと確かに廊下を人が歩く音が聞こえてくる。

 ほっとして、足音が到着する相当前から首を百二十度ほど巡らして教室の扉に顔を向ける。

 やがて、足音は十分大きくなってから扉の前で止まった。

 瞬間、がらりと扉が開いた。

「やーーーーっ! 諸君っ! やっっっとるかねえいっ!」

といったレベルの低い内容の発言をしながら現れたのはもちろんバイスではない。

 しかし、まったく知らない人間というわけでもなかった。

 僕はゆっくりと顔を両手でおおう。

「あり?」

 きょとんとばかりに人差し指を唇に当て、困ったしぐさを見せているかわいい彼女は、誰あろう、10年後の僕であった。

「『あり?』じゃないですよ」

 僕は失意を胸に押し込めて、つっこんであげた。

「あなたはどういうタイミングで現れるんですか!」

「どういうって言われても、――あれ?」

 彼女は眉間に人差し指を突きたててから斜め前方を見やった。

「ところで、今日は何月何日?」

 芝居がかった動作にあきれながらも、僕は答えてあげた。

「翌日ですよ、前回おいでいただいた時の」

「ふふん。やはり、少しだけずれたようだな。ま、大勢たいせいに影響なし!」

 あっさりそう言いのけてから、彼女は僕を見てにやりと笑った。

「久しぶり。と言っても、僕にとっては、ほんの一瞬しか経っていないわけだが!」

とドヤ顔で抜かすので、それにはつっこんであげなかった。

 素知らぬ顔で扉に目線を戻して動かずにいると、彼女は無視されたことに動揺を隠しきれないままに、

「で、あの、バイスは、今日はいないのかしら?」

と訊いてきたのでかわいそうになり、席をはずしているだけであることを素直に伝える。

 彼女はそれを聞いて少しだけ目を見開いてからおおげさに胸に手を当ててため息をついた。

「そうか。いるのか。なら、いいんだ」

 優しくうなずく彼女に僕としても何とも言えない気持ちになってしまう。

 一方で警戒しながら、一方で情にほだされてしまうのだ。

 容姿にだまされているのだと知りながら、人はどうして流されてしまうのだろうか?

 そんなどうでもいい疑問が脳裏をくすぐる。

「すぐに戻ると思うので、よろしかったらどうぞ」

 と僕が自席正面のイスをすすめると彼女は無言でその椅子に座った。

 先ほどまでの騒々しさはあっという間に消え失せてバイスが中座した直後のような静けさが戻った。

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