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第21話 香りと雑談

 では実際に、バイスにむけてこの話をどのように伝えるべきだろうか?

 冗談としか思えない内容は冗談めかして伝えるのが得策だ。

 しかし、相手はあの生真面目なバイスである。

 下手なごまかしはかえって逆効果だと判断した僕は、むしろ訥々《とつとつ》と10年後の僕の件を作画作業準備中の雑談として話してみた。

 最初は黙って話を聞いていたバイスだが、話が進むうちにどんどんと一種形容しがたい表情へと変化していった。

 そして僕が最後の最後に、

「まあ、そんな話だったとさ」

と適当にしめくくった時には、実際腕を組んで瞑目めいもくしてしまった。

 僕はそのあたりでようやく、この手の話はインターネットのオカルト現象報告掲示板にでも匿名で書き込む程度にすべきだったと後悔した。

 しかし、もちろんそれは後悔と言う名に恥じぬ手遅れっぷりだった。

「その彼女の素性も気にはなるが」

 バイスは思いのほか力のない声とともに口を開いた。

「そこまで僕らの事情に詳しいのも、確かに妙だな」

 それをもって彼女の発言全てを肯定するわけでもないが、とバイスは続けた。

 どうやらこの話自体の受け止め方についてバイスも決めかねているようだった。

「この部屋に盗聴器でもついているとか?」

と僕は冗談半分で混ぜっ返してみたが、効果的ではなかった。

「もし彼女が情報収集の末、僕の代わりにバイスのパートナーとなることを狙っているのだとしたらすべてのつじつまが合う!」

「タケオ」

 妄想に逃げ込む僕をバイスは湿った目で見てから、

「無駄話はやめてもらおうか。現実的に話をしよう」

と僕の冗句にやんわりと釘を刺す。

 しかしながら、バイスには悪いがこの話をどのように現実的に解釈すればよいのか僕にはさっぱり見当がつかない。

 まさかこんな話を真に受けてバイスは応募先を変更する気なのか?

 僕はハラハラとしながら推移を見守っていると、バイスはふっと笑い、

「実に奇妙な、即座に説明は難しそうな出来事であることは認めなくてはならないが」

と言いながら、イスからぎしりと立ち上がった。

 そのまま、窓際まで移動し、冷え冷えとした校庭の様子などを眺めながら、

「僕らが決めたことを他の人間の発言によって変更することはない。たとえそれが10年後のタケオであったとしても――だ。安心しろ、投稿先は甚大社のままだ」

ときっちりと言った。

 僕は無言でうんうんと何度もうなずいた。

 しかし、バイスは僕のほうは振り返らず、窓の外を見たまま、不思議そうな調子で続けた。

「しかし、なんで10年後のタケオは、そんな――女の格好なんだ?」

 日本的美少女の10年後の僕。

 ありえない。

 ただ、自分の意志でその格好を選んだのであればあの中身は間違いなく僕だと断言してもいいほど好み的にどストライクではあった。

 いや、まあ、それは横に置いておいても、確かにどうしてあんな格好で現れたのかについては未だに合理的と思われる説明も解釈もなされていない。

 バイスはそこのところがどうにも引っかかっているらしかった。

「その彼女は、また来る、といったんだよな?」

「うん、まあ……」

 脳みその端から転げ落ちそうな記憶を手繰たぐり寄せて僕が答える。

「本当にまた来るかどうかはわからないけどね」

「来るよ、きっと来る。そういう言い方をする人間は約束をたがえない」

 バイスは断定的にそう言った。

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