第19話 決断と回想終了
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「なるほど」
うんうん、と10年後の僕こと眼前の美少女は大げさにうなずきながら、僕の回想の終了を受け止めてくれた。
長い黒髪がばさばさと動いて落ち着きがない。
「まあ、これが一昨日くらいの話なんですけど」
僕は弱りきった顔と声で自身の回想のフォローを行なう。
「結局僕の不用意な発言から投稿先はバイスが想定していた消力社から甚大社に変更になってしまったわけなので、今さら僕の方から『やっぱり消力社にしよう』とは少しばかり言い出しづらいじゃないですか」
「そらーそうよ」
灯りだした外灯の光でおでこをピキッとてからせながら、彼女は元気よく胸を張りそう言ってのけた。
その元気に僕はげんなりした。
「それでもこればっかりはやってもらうわ。やってもらわないと困るのよ!」
「困るって、誰が?」
「決まってるじゃない、そんなの」
彼女は立ち上がり、僕の両肩をつかむと冗談みたいに顔を近づけて、
「僕たちが困るのよ!!」
と真顔で言ってのけた。
「そういうのは、まあ、いいんですけど」
僕は彼女の目線から逃れながら、困り顔でそのオーバーなアクションを受け流す。
彼女は不満げな顔で僕を見るが、精神的かつ異性交遊歴的にそれを受け止める余裕がなかっただけなのだ。
すると、彼女は大げさにため息をついてから、
「んまっ、そーゆーことで本当に時間もないんで今日のところはとりあえず帰るけれども」
と話を切り上げ始めた。
僕は心底ほっとして彼女を見やると、
「でも、またすぐ様子を見に来るから! それまでに投稿先を! ちゃんと! 間違いなく! 消力社に変更しておくように! いい? 約束だかんね!!」
と言いながらビシッと人差し指で僕の顔を指した。
約束とは、かくも一方的かつ暴力的なものだったであろうか?
「えと、ちなみに変更しなかった場合、僕たちはどうなってしまうのでしょうか?」
僕はゆっくりと人差し指の先っちょを避けながら疑問を呈してみる。
すると彼女はなぜか得意げに、
「どうなるもこうなるも」
と無駄にためてからぐっと自分のかわいらしい顔面の中心あたりを親指で示しながら、
「こうなるのよ――!!」
と地獄の底くらいに低い声で力を込めて告げた。
本来であるならば、この時にしっかりと、
「っていうかっ、こうなるってっ、どーゆーことなのですかっっっ!?」
などと彼女の肌のきめに負けない細やかさで反問していくべきではあったが、大量の回想をこなした直後で何もかも面倒になってきた僕は、
「なるほど、非常によくわかりました」
と嘘をついた。
すると、彼女は実に満足げにうなずいた。
嘘をついただけなのにここまで満足されるといいことをしたような気分になってしまう。
「じゃ、また来るから!!」
砂をぎじりと踏み鳴らしながら踵を返して、彼女は公園の出口へと向かう。
再会を明らかに意識した不穏当な発言にすばやく反応し、
「またって……いつですか?」
と僕が問うと、彼女は笑顔で振り返った。
「君にとっては長い時間かもしれないが、僕にとっては一瞬だ! 大丈夫、必ずまた会えるから!!」
と言い残すやいなや、彼女は一目散に公園を駆け足で縦断し、そのまま夕闇の向こう側へと消えていった。
結局、振り回されっぱなしで10年後から来たという彼女との貴重な会見は終わったようであった。
僕は気持ちの整理などつけようもないままに、
「大丈夫って、全然大丈夫じゃないですよ」
とつぶやきながら再びイスに腰を落とすと、それを待っていたかのように頭上でカラスがひときわ高く啼いたのが聞こえた。




