第17話 決裂とすり合わせ
理屈による意見の相違と感情による意見の相違を比べた場合、後者のほうが溝としては深まる可能性が高い。
しかし、表明してしまった意見は引っ込めようがない。
まずはバイスの考えを聞こう。
「端的に作品傾向、想定読者層、新人登用枠、どれを見ても消力社のほうに軍配が上がるだろうと考えた点だ。もちろん、それは雑誌自体の優劣ではなく、僕らとの親和性において、だ。僕は今発行されている漫画雑誌のほとんどを購読している。週刊月刊織り交ぜての少年誌群は当たり前として、少女誌やヤング誌、青年誌まで、だ」
すらすら答えるバイス。
まあ、彼の博識ぶりから推察するに、そのような購買履歴は想定内だが、驚嘆に値したので僕は唖然とした。
バイスはふふと笑い、
「そんな顔するなよ。それほど珍しい話でもない。プロなら誰でもやっていることだ」
と何事もなさそうに言った。
確かにそうかもだが、どこにでもある話でもないだろうと僕が考えていると、
「ともあれ」
とバイスは話を本線へと戻した。
「消力社のこの雑誌も創刊号から目を通している。版元の性格からか、アニメ化を前提とした編集内容だ。メディアミックスを目指した、と言うよりもこの雑誌自体がそのメディアミックスの一形態というわけだ。メインターゲットは中高生から大きなお友達まで、およそ二次元に関心を寄せる一定年齢以上をカバーしている」
水着姿の女の子が微笑む表紙に目を落とす。
確かに一クラスあれば、消力社の漫画誌を読んでいる人間が何人かは確実にいるだろう。
その点では甚大社の雑誌はどうであろうか。
実のところ、僕も毎月毎月購入しては家で寝転がってむさぼり読んでいるのかと言えばそんなことはない。
いわゆる『単行本派』なのだ。
それゆえ、どういった層がこの雑誌の購買層なのか、と問われてもすぐには思いつかない。
読む側の人間としてはそういうことまで思いを巡らせることはなかったが、描く側からするとそういうことも当然考慮や考察をしていかなくてはならないということであろう。
バイスは話を続ける。
「つまり、簡単に言えば、僕にとっては、消力社のほうがいろいろとイメージがしやすい気がしたのだ。……ふん、タケオと結局は一緒だな。ここのどこかに僕らの作品が掲載されるイメージが湧きやすい、というのが一番大きな理由だな。どういうものをどういう角度でどういうふうに描くか。この連載陣に対して、どういう武器を手に戦うのか。僕らの強みを最大限に発揮するための最善手を具現化するには、とまあ、しかし、なんというか」
頬をわずかに紅潮させて語っていたバイスだが語尾を濁らせた。
「甚大社か、いや、その手もあるのか」
将棋のド素人が打った気まぐれな一手で名人が悩んでいるようなものである。
思いつきは思いつき。
気まぐれは気まぐれ。
その次の妙手など実際存在しないのだから無視していただいても全く問題はない。
しかし、手の内を明かしてみれば、僕同様にバイスにも決め手はなかったのだ。




