始怪との接触
強い力で引っ張られていた炎輪は朔谷から遠く離れた所に転がっていた。
「うう……ここは……」
炎輪がふらつきながら立ち上がる。
「朔谷の所に……行かなきゃ……」
炎輪がヨタヨタ歩きだしたとき、目の前に誰かが降り立った。
黒い髪の美女、始怪無慈だ。
異様な圧迫を放っている。
「お前、炎輪か?」
始怪が冷たい声で尋ねる。
「……なっ!」
炎輪が警戒して刀を構える。
『武器が違う……どういうことだ?別人?それとも姉妹だったのか?』
始怪が困惑する。
『万が一の事もある。奴に任せても大丈夫だろう』
始怪が踵を返す。
「帰れると思う?」
炎輪が技を繰り出す。
「水下・渦嵐!」
激しい水の渦が始怪を飲み込んだ。
しかしそれらは直ぐに霧消した。
始怪が紫の刀を握って立っている。
「そんなものか」
始怪が薄ら笑いを浮かべる。
『全く効いてない……!勝ち筋見えないんだが。でもやらないと朔谷を助けに行けない』
炎輪が『水之意』を封唱する。
「諦めたか」
「何言ってんだバーカ」
炎輪の手に深紅の七支刀が握られる。
「『天照之意』解唱!」
凄まじい熱波が始怪の髪を靡かせる。
炎輪が飛び掛かる。
始怪が強烈な一打を軽く受け流す。
『直々に始末しておいた方がよさそうだ』
始怪が考えを改める。
二人の間を物凄いスピードの剣戟が飛び交う。
⭐⭐⭐
出久と鳴村は敵部隊を壊滅させた味方達に声をかける。
「皆、よくやった!」
「信じらんないぜ!」
隊長が出久に報告する。
「敵、確認できず。掃討完了であります」
「了解した。僕たちは今から朔谷達と合流する。警戒体制は解かずこの場で……」
出久の言葉が途切れる。
鳴村が叫んだからだ。
「うわっ!マジか!」
鳴村が吹っ飛んできた朔谷をキャッチする。
「ぐぅぅ……」
朔谷が苦しそうに呻く。
頭から血が出ている。
兵士が迅速に手当てする。
「怪使い……だよな」
「そうだろう」
二人が解唱する。
二人の目線の先には一人の男がいる。
「あいつは……上之三だ……空気を……自在に操る」
朔谷が情報を伝える。
「よく分からんが、相当ヤバイ奴っぽいな」
鳴村が滅速の構えにはいる。
「ん、まだいたのかー」
上之三が少しびっくりする。
「しかも構えてるし」
『あの方からの命令をはやく遂行せねば』
上之三が鳴村の身体を引っ張る。
鳴村がそれに合わせて地を蹴る。
⭐⭐⭐
「……随分派手にやったみたいですね」
壁に空いた大穴を炎遠理が見上げる。
「取り敢えずふた手に分かれましょ」
水火が消える。
「あ、ちょっと……もう」
炎遠理も消える。