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怪狩り  作者: 大和煮の甘辛炒め
10/11

対抗戦・開幕

 四日後、信じられないことに炎輪と朔谷は全快しており、医療機関に併設されてあるジムで鈍った体を叩き起こすべく汗を流していた。数日後に開催される対抗戦に向けてなのもあるが、何より、任務に復帰しても差支えがないように体力を戻しておくように主治医から進言されたのだ。


 相変わらず鳴村と出久は任務に出ている。彼らも怪使いとの戦いを通じて、確実に実力を伸ばしている。


 彼らに追いつかなければ、そんな思いが炎輪と朔谷をトレーニングに駆り立てる。ランニングマシンで走りながら炎輪は『天照之意』について考えていた。


『天照之意は多分お父さんが使っていた意と同じ。意は遺伝することがあるって雪降教官に教わった。私は水之意が使えた。いや、あの時まで水之意しか使えなかった。昔の記憶がトリガーになって天照之意が発動したってこと?そんなことあるの?灰の孤島で炎遠理隊長と一緒にいた三つ柱の人は赤と青の武器を二振り持ってた。私と同じタイプなのかな、でも私は水之意と天照之意を同時に発動できないし.......』


 炎輪はランニングマシンを停止させるとロッカールームへ向かった。


「お前ももう終わりか」


 朔谷がジャージを着ながら炎輪に尋ねる。


「うん.......」


 炎輪は少しうわの空で返事をする。


「ん、らしくないな。悩みでもあるのか?」


「いーや、何でもない。てかさ、浴場で汗流さね?」


「サウナあり?」


「もちろん」


「さっさと行くぞ」


 二人が連れ立って歩きだす。程なく二人は脱衣所に到着した。二人は服を脱ぎながら会話を続ける。


「そういや、お前なんで怪狩りになったの?親殺されたとか?」


 朔谷の遠慮のかけらもない質問に炎輪はすごい顔を見せる。


「そういう事を平気で.......!」


「あ、悪い。感覚がマヒしてたわ」


 朔谷がへへ、と笑いながら謝る。


「私が中学生の時に二人とも死んだ。母さんは怪狩隊員で父さんは普通のサラリーマン。なんか意を使えてたけど」


 炎輪の言葉に朔谷が怪訝そうな顔をする。


「一般人が意を?引退した隊員とか?」


「分かんない。父さんは出張多めだったからあんまり話したことない」


「へー、そういう感じ。そっから怪狩隊に入ったの?」


「そう、雪降教官と父さんが知り合いだったみたいで、私を怪狩隊の育成機関に繋げてくれたの」


「やっぱ関係者じゃん。階級どんなぐらいだったんだろ」


 朔谷が炎輪の父の想像を膨らませる。


「病気しがちだったし平隊員だったと思うよ」


 炎輪が朔谷の方に話を向ける。


「そういうあんたは何で怪狩隊に?」


「私?意を解唱することが出来たから。あと軍より若干給料がいい」


 朔谷が淡々と言い放つが、炎輪がドン引きする。


「金儲けで怪狩りやってんの?」


「違うわよ、あくまで理由の一つってだけ。基本給三十五万、そっから色々控除がありーの、任務手当がつきーので四十万くらいかな?」


「普通に働くより稼ぎやすくはあるもんね」


「まーね。そうじゃなくても軍人も怪狩りも人の平和を維持することには変わりないし」


 朔谷がため息をつく。


「対抗戦でやりあう第二、どんな奴がいるんだろうな」


「分かんないけど、余裕っしょ」


 炎輪が楽観的に言いながら浴場に向かう。それを見た朔谷がまたため息をついて彼女の後に続く。





 日は過ぎ、対抗戦当日。炎輪たち四人は第一訓練校の電脳教練棟にいた。ベッドに横たわった四人の頭にはゴーグルとヘッドセットが装着されている。


 本来であれば、第一訓練校と第二訓練校どうしで闘い、倒した人数が多い方の訓練校が勝利、という方式で対抗戦を行っていたが、今回は第一訓練校、第二訓練校ともに人員の欠損が著しいため、バトルロワイヤル形式に変更されている。


 電脳空間でその旨を告げられた炎輪たちが対抗戦の会場へ転送される。目の前に住宅地が広がっていく。遠くにはビルが立ち並んでいるのも見える。


『ルールは単純、敵を倒しまくる。地形や建物を利用してうまくやらないと』


 炎輪が『水之意』を解唱する。刃の蒼はより濃くなっている。


『なんか色濃くなってない?選別の時は淡い青だったのに』


 それだけ成長したということなのだろう、と炎輪は解釈することにした。対抗戦の開始を知らせるブザーが鳴り響く。炎輪が駆け出す。


 すでに戦闘は始まっているようで、あちこちから爆発音がきこえてくる。時折、雷鳴が轟く。恐らく鳴村だろう。


 そんなことを考えていると、傍の民家の屋根から隊員が炎輪に飛び掛かった。


「見つけたぞ、赤女!」


「水下・うね波!」


 炎輪も飛び上がってその隊員の首を斬りはらって屋根に上がる。これは個人戦。敵を倒さなければ順位を上げることはできない。


 屋根から屋根に飛び移って人のビル群に向かう。後ろから第二訓練校の隊員たちが追いかけてくる。


「あいつら、徒党組んで追いかけてきてない?個人戦でしょ?」


 炎輪が困惑しながら水下・瀑落で民家の屋根に大穴を開ける。


「民家に逃げ込んだぞ!」


 追いかけてきた隊員たちが屋根に空いた穴に飛び込んでいく。


「水下・鳴門渦!」


 着地の瞬間を見計らった炎輪が大振りの回転斬りで隊員を纏めて倒しきる。


「うかつに飛び込むのはダメでしょ」


 炎輪が呆れながら屋根に登り、ビル群へ向かう。





 鳴村はそのビル群で第二訓練校の隊員たちと交戦していた。


「高雷仁迅」


 雷のごとき速度の技を隊員が見切れるわけもなく、やられていく。


「何なんだあの速度、全く目で追えない」


 隊員たちが尻込みし始める。


「雪降教官の言ってたこと、あながち噓じゃないかもな」


 鳴村はそういうとまた技を繰り出す。雷光が閃く。


 その時、上空から鳴村に向かって氷の矢が降り注ぐ。鳴村は間一髪で飛びのき、事なきを得た。


 矢の刺さった地面がバキバキと凍り付いていく。鳴村が上を見上げる。


「上にいるな」


 それを見下ろす形でビルの屋上から蒼髪の女が弓を引いている。


「ピカピカ光ってるからどこにいるか丸わかりよ」


 矢の先端に冷気が凝縮されていく。矢が放たれた。下にいた鳴村は降り注ぐ矢を弾きながら上に行くタイミングを見計らっていた。


『俺の位置を的確に狙ってくる。高層ビルの屋上から狙ってるのか?』


「いつまでもつかしらね」


 女がまた弓を引く。





 ビル群へ順調に向かっていた炎輪だが、前方の民家から誰かが飛び出してきたのをみて立ち止まる。巨大な戦斧を担いだ大柄な男。


「今度はあなたが相手?」


 炎輪が刀を構えて尋ねる。すると、男の方も戦斧を構えると唐突に名を名乗り始めた。


「俺は横田よこた日斗ひと、第二訓練校出身で現在は守音隊に所属している!お前は!」


「......あ、えっと、私は炎輪千花、第一訓練校出身で炎遠理隊に所属してる!」


 面喰いながら、炎輪も彼と同じよう名と所属を明らかにする。横田の瞳が輝く。


「俺と同じく三つ柱のところに配属されているのか、気が合いそうだな」


「そうは思わないけど」


 炎輪が仕掛ける。


「水下・疾打・崩波!」


 変則的な三連撃を横田は完璧にはじき返す。


『同期に水之意を使う隊員はいるが、ここまではっきりした水の太刀筋は見えないぞ......』


 横田が戦斧を振りぬく。刃で受けた炎輪は踏ん張り切れず民家を突き破って吹っ飛んでいく。

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