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短編 お勧め順

転生ヒロインは世界が乙女ゲーの舞台だと気づかない~転生したら愛人の娘だったが虐待されていた正妻の娘を保護してもらうことにした~

作者: 紀伊章

殺人や虐待を内容に含みます。具体的な表現はありません。

途中で視点切り替えあり。


 ずっと自分のことは普通だと思っていた。まだ10歳だけど。


 ちょっと出張が多くて、自慢話多めのイケメンだけど、普通の父。

 天涯孤独だった両親を早くに亡くしてちょっと薄幸美人要素ありだけど、中身は至って普通の母。

 美男美女の両親の間に生まれたので、見た目は可愛いけど、普通の自分。

 そして、母の弟の息子で、両親を亡くしてうちに引き取られてきた義弟。


 まあまあ普通の家族。まあまあ普通の自分。

 何か違和感はあるけど、きっとこれからも普通の人生を歩んでいくんだと

 ……そう思っていた時期もありました。


 今日、違和感の正体が分かった。

 ……わたし、前世持ちじゃん。

 そして、それどころじゃなかった。


 小学校が夏休みに入るなり、母に「今日、新しい家に引っ越すよ」言われてなぜか旅行に行くくらいの荷物で連れられてきた家は、明らかに既に誰かが住んでる豪邸(住み込みの執事とお手伝いさんと料理人付き)で。

 父に「お前たちの姉だが、仲良くしなくていいぞ」言われて紹介された女の子は、わたしと同じ年くらいで誰がどう見てもネグレクトにあっていた。


 ショックのあまり元から微妙に覚醒していた前世の人格が完全に蘇ってしまったが、エピソード記憶とかがほとんど思い出せなかったせいか、気を失ったりはしなかった。


 「この子くっさい!」

 義弟のレンが叫びだした。

 父がレンに同意して、女の子をお手伝さんに預けたが、両親と同世代くらいの女性のお手伝いさんは女の子をこづきながらどこかに引きずっていった。

 どうしたらいいんだろう……


 その後、すぐ昼食になったが、やはりというか、あの子はこの豪華なダイニングにはいなかった、というか、席がなかった。おかげで昼食は豪華だったがほとんど喉を通らなかった。

 そのせいなのか、柏木さんという執事がちょっと高そうな缶入りのクッキーとジュースをわたしとレンにくれた。これだけ見るといい人っぽいけど、この人も住み込みなのにあの子をネグレクトしてるんだよね、と思うと、あの子と一緒に食べたいとは言い出せなかった。


 レンに新しい家を探検しようと言われたので「かくれんぼならいいよ。最初わたしが鬼やる」と答えて、レンをだしにあの子を探せることになった。レンとも別行動できるしちょうどいい。


 わりと難なく、あの子の部屋を見つけることができた。


 ノックもせずに入るのは気が引けたけど、かくれんぼの鬼設定だし、ノックの段階で断られたらまずいと思って押し入った。しかも誰かに見つかりたくなかったので、素早く後ろ手でドアを閉めている。わたしすごい不審人物、ちょっと心折れそう。


 女の子はびっくりして固まっていたが、構わず声を掛ける。


 「こんにちは!さっき会ったよね。わたし真理愛」

 ほんとはそんな陽キャじゃないんだけど、今だけズケズケいくことにした。そしてそんな名前です。この名前も自分のキャラに合ってないと思ってる。


 「あ、あの、私、麗香です」

 おどおどしながらも答えてくれた。

 「ねぇ、ちょっとお話しない?麗香ちゃんて呼んでいい?ここ、麗香ちゃんの隣、座っていい?」

 「う、うん。いいよ」


 なんと麗香ちゃんのお部屋にはソファがあったのだ。麗香ちゃんは真ん中近くにいたのを少しずれてわたしに座らせてくれた。

 部屋の家具とかは良さそうだったので、ネグレクトも最初からではないんだろう。

 今は掃除とかごみ捨てとかもされてないし、服の洗濯や、お風呂に入れてもらったりしてなさそう。


 「これ、良かったら食べない?」

 なにはともあれ、少しでもカロリー取ってもらいたかったので、クッキーとジュースを差し出す。かくれんぼ中なのに持ってるから、なおさらヒヤヒヤしたよ。

 「え、で、でも……。コップとかなくて、分けられないから……」

 オロオロしながらも、受け取ってくれなかったが、分け合おうとしてくれたらしい。

 「良かったら麗香ちゃんが全部食べてくれない?わたしお腹いっぱいで」

 「ほ、ほんとに全部食べてもいいの?」

 「もちろんだよ。わたしさっきお昼食べ過ぎちゃって」

 うそだけどな。でもあんたが食べてくれないとこっちが生きた心地がしないよ。


 今は夏なのに長袖を着ている麗香ちゃんだが、長袖の上からでもガリガリなのが分かる。

 いつからこんななんだろう。服のサイズは合ってるけど。

 麗香ちゃんは上品だけど、すごい速さで飲んだり食べたりしている。

 こんなお腹減ってるのに我慢しようとしたんだ。すごいなこの子。

 レンなんか、何も言わずにわたしの分のおやつまで食べていくのに。

 麗香ちゃんは上品に食べ終わると、丁寧にごちそうさまを言ってくれた。


 「ほんとうにたすかりました。もらったパンがなくなってしまって、お腹がすいていたんです」

 「ご飯ていつもどうしてるの?」

 「前に柏木さんがパンと飲み物をくれたので、それを食べていました」

 「それはいつから?どんな感じで?」

 「沢井さんが、前のコックさんがいたころは、ダイニングでお母さまと食事していたんです。でも、3ヶ月くらい前に沢井さんがやめて、ずっと部屋にいるように言われて、それからパンと飲み物だけ渡されるようになりました。お母さまに会おうとしたのですけど、いつも寝ていて、お話できませんでした。それに、部屋から出ているのを見つかると叱られるようになってしまって……。2週間くらい前、お母さまが亡くなったと聞かされた時にパンと飲み物をたくさん渡されたのですが、昨日なくなってしまって……」


 麗香ちゃんの言葉を聞きながら、わたしは血の気が引いていた。

 前世の人格が蘇ったことと、今日知ったことのせいで、わたしの中で今世の家族に対して距離が出来たように感じていた。父のことは見損なったし、義弟とはもともとあまり気が合っていない。でも母だけはそうではなかった。一番長く一緒にいたし、一番頼りにしてきた。今日のことも、善人とは言えなくても、悪人というほどの積極性はなかったと思ってた。でも今、疑ってしまっている。


 麗香ちゃんは今、3か月前に麗香ちゃんのお母さんが生きていたと言った。

 母がわたしに「新しい家に引っ越すことになった」と最初に言ったのは3か月前だった。


 「あ、あの、どうしました?すごく顔色が……わ、私が全部食べてしまったから……」

 ハッとした。今はとにかくこの子を守らないといけない。


 「麗香ちゃん、お願い、わたしのこと信じて。もうこの家から逃げたほうがいいと思うの」

 麗香ちゃんもハッとしたようになった。

 「し、信じます。どうすればいいですか?」

 「この家の人誰にも見つからないようにして近くの交番に駆け込もう。もしできるなら、今すぐでもいいと思う」


 電話が使えれば良かったけど、まだ持たせてもらってないし、この家の家電を使うのは危険すぎる。交番の場所は、今日、ここまで来るときに車の中から見たから、きっと行ける。

 「裏口からならできると思います。ただサンダルが1足しかなくて……」

 「外に出てから合流できる?わたしだけなら多少見つかっても問題ないし。最悪、麗香ちゃんだけが交番に行ければいいから」


 その後、外に出てから合流までの道順というほどでもないが道順を確認しあい、一緒に交番を目指すことにした。麗香ちゃんだけ脱出することも話し合ったが、麗香ちゃんが一人では不安だというので一緒に行く。


 交番までは2キロもないので、こんなものが冒険とは言えないと分かっている。


 でも、誰にも見つからずに家を出るまで、麗香ちゃんと無事合流できるまで、そしてちゃんと交番にたどり着けるまで、心臓はずっとドキドキドキドキしっぱなしで生きた心地がしなかった。

 もし見つかっても、麗香ちゃんは走れない。体が弱りきっている上に、足元がサイズの合わないサンダルだからだ。

 わたし達は、お互いの手をまるで命綱を握り締めるように取り合って、2キロ足らずの道を必死で歩いたのだった。


 そんなこんなで、わたしは交番にたどり着いてお巡りさんを見た瞬間へたり込んで泣き出してしまった。黒歴史である。


 あやうくただの迷子扱いされてせっかく逃げてきた家に連絡入れられそうになったけど、麗香ちゃんを差し出し「この子を助けて下さい」と訴えたらわかってもらえた。

 そうだよ。それくらいはっきりネグレクトされてんだよ。あの家の人たちってバカなのかな?

 お巡りさんが児童相談所の職員さんを呼んでくれて、わたしはしばらく放心状態だった。

 麗香ちゃんは不安だったみたいで、合流してからつないだ手をそのままずっと離さなかった。


 そして、驚いたことに、麗香ちゃんの母方の祖父の弁護士とやらが児童相談所の職員さんより先に来た。

 やってきた弁護士は、麗香ちゃんの状態にしばし絶句し、麗香ちゃんに謝り、そのままわたしにお礼を言ってくれた。

 麗香ちゃんをこの状態に陥らせた責任のある大人の一人として、無能疑惑をわたしに持たれていた弁護士だったが、実は有能だったらしく、瞬く間に、児童相談所とわたしの両親に交渉して、麗香ちゃんのみならずわたしまでを、麗香ちゃんの母方の実家に引き取る手続きを終わらせてしまった。


 わたしが麗香ちゃんの母方の実家に引き取られるのは無理があるが、激高した父がわたしに暴力をふるいそうになったため、保護のためにもと申し出てもらった。それに、麗香ちゃんがわたしとずっと一緒にいて欲しいと言ってくれて、麗香ちゃんと一緒に麗香ちゃんの祖父(祖母は亡くなっているそうなので)の正式な養子になった。名前が虹皇真理愛になり派手さが増してしまってちょっと困惑してはいる。


 そしてその後まもなく、父が麗香ちゃんの母を殺害したとして逮捕された。

 やはり、3ヶ月前ほどから、少しずつ毒をもっていたということだった。

 勿論、麗香ちゃんへの虐待の罪でも起訴されている。


 母は取り調べは受けたが、不起訴となった。実行犯としては全く関わっていないし、間接的な協力もなかったとのこと。殺害計画を知っていたのでは?という疑惑も、具合が悪くて近いうちに亡くなりそうという話を聞いて準備しただけということで、褒められたことではないが、罪に問われることではないということだった。不倫ではあるが、これは民事であって刑事ではない。父が殺人犯なので、いずれにせよわたしは殺人犯の娘になってしまうが、せめて母が殺人に関わっていないと聞いてちょっとホッとしている。

 

 わたしはやはり母と暮らすべきでは?という話し合いもしたが、レンのこともあって、経済的な事情から、このまま虹皇(麗香ちゃんの祖父の苗字、すごい名前!『こうおう』と読むそうな)家にひきとられることになった。母は働いてなかったので、虹皇家が仕事の斡旋と、資金援助をしてくれることになった。もう頭が上がりません。将来、何か返せるといいな。母とは定期的に会えることになっている。


 レンは、母と一緒に暮らしている。もともとなぜかレンの方が、わたしの実父母になついていて、わたしはレンの両親と気が合っていた。母は大変かもしれないが、一人っきりじゃなくて良かったかもと思っている。


 執事の柏木さんとお手伝いさんは、麗香ちゃんへの虐待だけでなく、麗香ちゃんの母の殺害の共犯者として罪に問われている。料理人の沢井さんの定年退職を殺人の契機にしたようだ。その後に雇われた料理人は住み込みではなく、最低限のことしか知らされておらず、麗香ちゃんの存在も知らなかったらしい。


 色々あったけど、とりあえず今は平穏、かな。



***


 本日は、私たちの高等部への入学式の日です。

 家族と共に、この虹皇学園にやって参りました。


 「……ハッ!?」

 ここは、私が前世で好きだった乙女ゲーム「虹色の愛をあなたに」のオープニングの場所です。

 突然、前世の記憶が蘇ってきて混乱しておりますが、人格は今世のままのようで気を失うほどではないようです。


 「どうしたの?」

 思い出したゲームのヒロインだけれど、それ以上に私の大親友で、妹の真理愛が心配してくれています。

 ……もう大分ストーリーが変わってしまっておりますね。

 もう、悪役令嬢のエンディングのことは気にしなくても良いかしら?


 やはり不安なので、真理愛に手をつないでもらいます。

 あの日から、真理愛に手をつないでもらうと、安心できるようになりました。

 そろそろ、控えないととは思っています。


 祖父と別れて、真理愛と校舎に移動します。

 

 ゲームのことを一応整理しておきましょう。


 私、虹皇麗香は、このゲームの悪役令嬢です。


 現実の私は、一時期、父たちから虐待を受けていましたが、ゲームではそのような描写はありませんでした。ただ、真理愛母娘と仲が良くなさそうな表現があるだけでした。


 ヒロインは、私の父の愛人の娘で、母亡き後の父の再婚で正式に私の異母妹となった虹皇真理愛です。

 攻略対象は、虹の七色に合わせた7人がメイン、他にも条件付きクリアによって解放されていく隠しキャラがいます。


 虹皇麗香はメインの7人の誰を選んでも、悪役令嬢になります。7人全員が、虹皇麗香の婚約者候補だからです。


 虹皇家は、前世の日本ではあり得ないほどの大財閥です。私の母はその本家の一人娘でした。

 父は入り婿だったのです。


 ゲームでは、攻略がある程度進んだ後、一定以上好感度の高いキャラとともに、実父が前妻を殺害した過去を推理するパートがありました。ゲーム開始時に、私の母の死は病死扱いだったのです。


 実父が殺人を犯したことへの嘆き、その犯行の結果として虹皇家に引き取られて攻略対象と出会えたことへの葛藤、そういったものをスパイスに恋が盛り上がっていく描写でした。


 メイン7人全員の逆ハー攻略に成功すると、虹皇家の正当な跡取りの麗香が逆上して、ヒロイン殺害未遂事件を起こし、跡取りから外されます。

 そこで、成績優秀なヒロインが、実は虹皇家の分家だった7人と協力して虹皇家を引き継いで、ハッピーエンド、でした。


 今思うと、茶番ですね。前世の私は気にならなかったのかしら。

 

 入学式の会場につきました。


 攻略対象の方たちが私に近づいて来ようとするのを、真理愛が牽制しています。


 ゲームと現実の乖離は、主に真理愛のせいなのだと思います。


 ゲームではふわふわとした栗色の髪をショートボブにしていましたが、現実では「髪が絡まって面倒くさい」といってベリーショートにしています。

 昨日までは、似合っていると思っていましたが、いえ、今も似合っているとは思いますが、乙女ゲームのヒロインにはあまり見ない髪型ですね……

 

 多分、真理愛も転生者なのでしょう。

 でも、このゲームのことは知らない気がします。性格的にも乙女ゲームに詳しくなさそうに思います。


 真理愛がこの学園に入学することになったのは、虹皇家に引き取られたからですが、虹皇学園からも真理愛に入学を打診しています。「生活費も学費もおこづかいすら出してもらっているんだから、せめて勉強は全力で取り組む!」という真理愛は、おそらくゲームよりも成績優秀です。


 現実の私は、今、婚約者などおりません。


 母の結婚は、祖父が、母のために立場の弱い分家の相手を選んだものだったのですが、それがかえって最悪の結果を招いています。

 当然、孫の私に同じことを繰り返したりはしません。


 ゲームでは立場の弱い婚約者候補にさせられたことに不満を持っていた攻略対象たちでしたが、皮肉なことに現実では、虹皇家本家への婿入りを希望して、私にすり寄ってきています。

 「勉強やスポーツなんかで自分を磨けばいいものを、色仕掛けで逆玉の輿に乗ることしか考えてない」と、真理愛に蛇蝎のごとくに嫌われています。


 攻略対象たちは、トラウマや心の傷があって、ヒロインに癒してもらっていたはずですが、この世界ではどうするのでしょう?


 前世の記憶が蘇る前から、彼らの心の闇みたいなものは気になっていて、カウンセリングのようなことをしては、真理愛に心配されていました。

 「プロに任せた方がいいし、麗香には、もっと精神的に安定していて思いやりのある人を選んでくれる方が安心なんだけど……」


 そんなつもりではないんですけど、心配になってしまうのです。

 どうしましょうね?



***


 高校の入学式から帰ってきた。

 すっごい疲れた。


 なんでかというと、麗香の遠縁で、勝手に麗香の婚約者を名乗るヤツが7人いるのだが、そのうち5人が、同級生で今日の入学式にいたためだ。

 同級生になったことを運命だとか言っていたが、虹皇学園は、名前からも分かる通り、麗香の実家が創設した学校で、親族は皆この学校である。しかも、小規模校なので、各学年1クラスしかない。

 残る2人は、1人が同校の1学年上、もう1人が来年入学予定だ。


 7人は、自分たちは虹皇の虹にちなんだ色を名付けてもらった特別な分家だと言っているが、そうではない。というか特別な分家の意味が分からない。聞いた話では、数代前に、虹皇家の娘の子孫が嫁に来たから、自分たちも虹皇を名乗りたいと言い出したのを、適当な名と職を提案して引き取ってもらったとの事。近年では、採用を優遇するかわりに、休日出勤などに積極的対応してもらっているという話で、彼らの家族はそんな困った人たちではない。

 ちなみに、虹皇家の本当の分家は虹皇姓を名乗っていて、ちゃんと本家の事業に携わっている。


 7人が面倒なのは、「可哀そうな、僕(私、俺)」アピールが酷いところだ。

 わたしも、最初はあんまり言うので、本当に可哀そうなのかな、と思ったんだけど、周りの話を聞いて今では違うと思っている。

 

 例えば、「みんな跡取りの兄ばかりをチヤホヤして、自分の方が優秀なのに、正しく評価されない」というヤツの兄に会ってみたら「弟は怠け者なところがあるけれど、自分にはかわいい弟だから、大変な跡取りは自分がやって、弟には好きに生きてほしい」と言ってたし。


 逆に「跡取りとしての自分しか見てもらえず、とにかく厳しくされるばかりで……」は、「跡を継ぐほどの家ではないんだから、ちゃんと自分で身を立ててほしくて……」とご両親が言ってたのを聞いた。話し合いが足りてないというより、当人、あまり人の話を聞かないのでは?と思っている。


 他には、「凄惨な事故に遭って、暴力的なことがトラウマになってしまった」アピールのヤツは、事故現場を目撃してしまったのは本当だが、被害者のけがも治っているし、当人はもちろん無傷。大体、暴力的なことが少し苦手とか、普通では?


 「美しすぎて、いつも望まぬことをされる僕」アピールは、幼いころに変質者に出会ってしまったらしく、それは確かに可哀そうなんだけど、保護者から抜け出して遭ったことで、すぐに探し出してもらえて、5分もなかったという話。見てると、自衛している様子がないので、トラウマになってるようには思えない。


 「自分の才能は音楽なのに、家は武闘派だから、好きに生きることを許してもらえない」というヤツの音楽の成績が5段階評価で4相当、と聞いた時はズッコケた。


 他にもあるが、とにかく麗香がよく騙される。

 他の人は騙されないので、自分たちに都合の良い麗香に7人が集って逆ハーみたいになってる。

 顔か?顔なのか?あの7人は見た目だけはすごくいい。

 面食いだけなら、見た目もいいが中身もいい人を養父に紹介してもらったらなんとかなるだろうか?



***


 本日から、第二学年に上がります。

 ゲームは入学式から始まっておりますが、年下の攻略対象の方が入学し、年上の攻略対象の方が卒業するこの学年での出来事は、ゲームのメインと言えるでしょう。


 ゲームと現実の乖離は大きくなっており、ゲームでは、容姿端麗、成績優秀で、芸術やスポーツの才能がある、ということで、注目を浴びていた攻略対象の方たちが、現実ではそれほど目立ってはいません。

 

 これも、攻略対象の方たちのせいというより、真理愛によるものだと思います。


 私たちが虹皇学園の中等部に入学した後、おじい様(養子縁組をしましたので、養父なのですが、以前と同様に呼んでおります)が虹皇学園の奨学生には応募が少なく、辞退が多い、という話をしたことがあります。余談ですが、おじい様と真理愛は、仲が良いです。私の言ったことに、そろって全く同じリアクションを取られることがあり、本当の祖父と孫のようです。


 「学費が無料なだけじゃあ、他の費用が賄えなくて、お金のない家では無理じゃないかなぁ」という真理愛の話を聞いたおじい様が、奨学生を特待生に変更し、学費以外にも、制服や文房具などの備品、その他必要と認められた請求書の受付を行うようになりました。

 

 この変更により、学業優秀な特待生、個人競技中心に全国大会クラスのスポーツ特待生の方たちが、以前よりも多くいらっしゃることになりました。他の生徒も特待生に触発されて、学園全体の成績が伸び、クラブ活動も盛んになりました。


 さらに、真理愛自身も全国規模での学力テストで最上位に入るような実力者になっており、その性格とも相まって、学園での人気が非常に高いです。


 その結果、攻略対象の方たちは、ゲームと変わらない実力だったのに、周りの実力が上がったり、もっと目立つ存在が出来て、目立たなくなったのです。 


 そして、おじい様と結託して、私に男性を紹介するようになりました。私、まだ16歳ですから、困ってしまいます。攻略対象の方たちとの仲を心配されているようですが、前世の記憶で知っているからどうしても気にかかるだけで、まだ、どなたともそのような仲になるなど、考えたこともありませんのに、通じません。

 まあ、そのうち虹皇の分家の方は、密かに真理愛のための相手のようですので、真理愛に会わせるためにも、適度に家族ぐるみでの交流を続けております。


 前世の記憶については、入学式の後、思い切って真理愛と話をしました。

 驚かれましたが、真理愛にも前世の記憶があるということで、受けて入れてもらいました。

 ゲームの話もしましたが、それはピンとこない様子です。

 「前世のゲームは参考にするにしても、現実とは別と思っていいんじゃないかな?」

 確かにそうですけれど、私は、真理愛ほど割り切れないと思います。

 納得できなかったのは、話し合った後に、真理愛がポツリと言った「前世も箱入りだったから、今世は筋金入りか……」との言葉。

 「虹皇家は確かに大財閥ですけれども、私は、普通ですよ!」

 「ハイハイ」

 「私は普通です!!」

 「ハイハイ」

 「私は普通……



***


 今、高2の夏休みである。


 今日、なんと、麗香が「結婚を考えている相手がいるので、会ってほしい」と言い出し、急遽、養父と会うことになった。

 養父は高齢なので、あまり驚かさないであげてほしかった。

 養父が倒れたら大変なので、麗香の個人的な話とはいえ、わたしと、今日偶然来ていた司さん(麗香の面食い対策として養父がかき集めた一人、虹皇の分家の人、大学生、女子力高い)も同席する予定である。

 個人的には、あの7人の誰かだったら、たたき出すつもりだ。


 ……つい先ほど、麗香の彼氏の坂田さんがお帰りになった。

 坂田さんは、建設会社の若き幹部社員。麗香がなぜか工事現場に入り込んでしまって(トラテープの意味を知らなかった!?)事故に遭いかけたところを、たまたま視察に来ていた坂田さんに助けてもらったらしい。今日。スピード過ぎる。

 

 それはそれとして、最初に驚愕の表情をしてしまったことを許してほしい。

 そして、養父と同時に思わず本音が零れ落ちたことも許してほしい。

 人は容姿ではないと思っているし、坂田さんを貶すつもりもない、ただ、事実として聞いてほしい。坂田さんの容姿はゴリラによく似ていた……

 「「麗香は、面食いではなかったの(か)……」」


 結婚は、麗香が大学を卒業する年になったら、という条件で交際は許されることになった。

 あの7人に捕まるよりは、というのがあるんだろう。

 5年以上付き合って気持ちが変わらなかったら、本気だろうし。

  

 「結局、あの7人の麗香の中のポジションて、何だったんだ?」

 驚きの面会の後、司さんにお茶を入れてもらっている。司さんお手製のお茶菓子付き。時々こうして、手の込んだお菓子を持ってきてくれる。

 前に、調理実習の予行練習で、麗香と夕食を作ることにしたときにも、手伝いに来てくれた。麗香が指ではなく手を切り落としそうになったので、麗香の調理実習は見学になった。麗香、料理しなくていい家に生まれてよかったね。そして、料理のできる司さんはオススメだよ。ちなみに、わたしの料理は「美味しいけど、男飯って感じ」との評価。……肉が多かったですか?

 

 「単純に可哀そうだと思ってたんだと思うよ?前に、けがした猫に出会ったとき、似たようなリアクションだったでしょ」

 「それはそれで騙されやすくて心配だなぁ」

 「分かるけど、もう坂田さんの仕事でしょ」

 「……なんで坂田さんだったんだろう?」

 「ピンチに助けてくれる人に弱いんだと思うよ?キミにベッタリだったじゃない」

 「……司さん、振られちゃったねぇ」

 「僕は振られてないよ。最初からキミの相手だったからね」

 「え?」

 「聞いてない?」

 先に言っておいてください、そんなこと。



 坂田さんと付き合いだした麗香は、夏休みあけて、あの7人には見向きもしなくなりました……




拙いところはご容赦下さい。

読んでくださってありがとうございます。


分かり難くて申し訳ないですが、冒頭近辺の主人公の母の説明について、

母の両親(つまり主人公の母方の祖父母)が、どちらも天涯孤独だった設定です。

両親を早くに亡くして親戚も全くいない主人公の母は、

かなり経済的に苦しい境遇を送っていたため、

愛人という立場を受け入れていた、というつもりです。


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