プロローグ:明日も昨日の味がする
好きになることは難しい。相手を知らなければならないから。
嫌いになるのはさらに難しい。相手を知ってしまったからだ。
「お姉ちゃん、ご飯だよ!」
優しく太陽の光が体を包み込む。目を閉じていても少し明るい。囁くように風が吹く。私に早く起きろと急かすように。
小さな部屋に少女の声が木霊する。心地良い音。私の体をスッと軽くする。
重い瞼を開ければ、一切れのパンと小さな果物が一つ、私の席の前に置いてある。
「おはよう、お姉ちゃん」
昨日村の人から貰ったパンと果物。出来立てのパンと一緒に食べたら美味しいと教えてもらい、よかったら食べてみてと村の優しいおばちゃんから貰った。勿体無くて結局昨日は食べなかったが…
———少し硬い。出来立ては綿のようにフワフワしていたがやはり、一日置くと触っただけでもその硬さがわかる。
(あの時食べておけばよかったな…)
「いただきます!」
「…いただきます」
パンを一口。…やっぱり硬い。味は美味しいがパンではないものを食べている感覚だ。噛むたびにモニュッモニュッって音がするし。正直次の一口を食べようとは思えないほどだ。思わず貰った果物の方に視線が行く。
この果物がどこまで変な食感のパンを美味しくしてくれるか…
あらかじめ切っておいた果物をパンで挟むようにのせる。見た目は少し鮮やかになった。白いパンにオレンジ色のものが乗るだけで美味しく見えるから不思議だ。
だがやはり先程のパンの食感を思い出すと口に運ぶのを躊躇してしまう。
———少しでも美味しくなりますように!
「…おいしい」
「おいしい!!」
硬かったパンが果物の果汁により柔らかくなり、ほんのりとパンに甘さを追加しているため豪華さが感じられる。モニュモニュとした食感もしないし、正直とても美味しい。
出来立てだったらもっと美味しかったのかと思うと少し残念だが、いつもの朝食に比べたら雲泥の差だ。贅沢なくらいだ。
「———ご馳走様でした」
食べ終わった後、残った皿を水に漬ける。
「今日も頑張ってね」
壁にかけて置いた木刀を手に取る。いつも握っているからか手に馴染む。
緩んでいた心を引き締め、扉を開ける。
———ふと家の中を覗く。
飾り気の無いシンプルな部屋。所々傷んでいるのか倒壊しそうな感じだ。
一人用の小さな机。私が丸太で作った机。正直使いにくくて最近使ってないからか埃かぶっている。
一人用のベット。ベットと言っても木で作った土台の上にタオルが引いているだけ。
窓に置かれた花束。昨日とって来た白い花…妹が好きだったやつだ。
「行って来ます」
扉を閉め歩き出す。
「———いってらっしゃい」
今日も孤独を忘れるように。
いつものように刀を振り続ける。
ありがとうございました。