こんなおれでも
どれぐらい時間が経っただろう。
続いておれは隣のソラを見た。おれが泣き止んだ後、ちょこんとおれのすぐそばに座って、同じように星を眺めている。
すると、こっちの視線に気付いてか、ソラもおれを見返した。
「…もう大丈夫ですか?ユウト」
「…うん」
「…なんか、ごめん。恥ずかしいところ見せちゃって。本当は、おれが慰める側のはずだったのに…」
そうだ。もとはと言えば、ソラが不安だから、おれが何とかしなくちゃいけなかったのに。いつの間にか、立場が逆転している。
「いいえ。いいんですよ。わたしも、ユウトには情けないところいっぱい見せちゃっているので…。全然、問題ありません」
ソラはにっと笑ってそう言うと、次の瞬間には顔を紅潮させていた。
「そ、それで、えっと…。さっきのは嫌じゃ、なかったですか…?」
「さっきのって…?」
「その…、ユウトに抱き着いてしまったので…」
「あ、ああ…。いや、全然。ちょっと、びっくりしたけど…」
「す、すみません!わたし、どうしたらいいか分からなくて…。自分にしてくれたら嬉しいことってなんだろう、と思って、咄嗟に身体が…」
「そんなこと、全然大丈夫だよ!むしろ、すごく安心したというか…」
「そ、そうですか…?それならよかったです…」
お互い、恥ずかしさが場を満たして、今度は気まずい雰囲気になってしまった。なんだよ、すごく安心した、って。もっと、良い言葉があったはずなのに、自分の語彙力が少なすぎて上手く表現できない。
「………」
無言が続く中、改めて、未熟だな、と思った。
いや、改めなくても、おれは未熟だ。何もかも。分からないことだらけで、口下手で、ソラの前で泣いてしまって。
正直、ちょっと成長したな、と感じることはあった。今振り返れば、傭兵貧乏生活にも慣れて、以前よりも少しは戦えるようになって、ネイビーという強敵とも、一応渡り合うことができたのだから。
でも、それは、本当に、たまたまだったのだ。
偶然、一緒にいた仲間が良いやつらじゃなかったら、こう上手くはいかなかった。身体が戦い方を覚えていなければ、おれはもう既に死んでいた。
そういう偶然が積み重なった上で、今のおれがいる。
成長なんて、これっぽっちもしちゃいない。
驕っては駄目だ。
でも。
おれは隣にいるソラを見た。
今もまだ少し耳を赤くして、俯いてしまっているので顔は見えないが、中庭を吹き抜ける風が彼女の黒く艶のある髪を緩く絡めていく。
きめ細やかな肌。華奢な骨付き。細い指。見た目通りの、年相応の、どこにでもいる女の子だと思う。
こんな子を。
何かに利用しようとしているやつらがいる。やるせない気持ちが、そっと顔を出す。
ホワイトとネイビーのことについて、何もしなかったわけじゃない。おれたちなりに、情報屋に当たったりして、探していた。でも如何せん、容姿が仮面で隠れていて、名前がホワイトとネイビーというだけでは、何にも引っかからなかった。
そんなやつらの目的なんか知らない。でも、彼女に怖い思いをさせて、ソレ呼ばわりして、追いかけ回すやつらの目的が、良いことのはずが無い。
だから。
こんな未熟なおれだけれど。
彼女を、守ってあげたいと思っても、いいのだろうか。
「…ユウト?」
急にソラが首を横にしたので、ずっと彼女を見つめていたおれの視線とばっちり目が合ってしまう。
「あ!いや!」
おれは驚いて意味も無く立ち上がってしまった。ソラはきょとんとしておれを見つめている。
何してんだよ。
最近こんなんばっかだなあと自分の拙さに嫌気が刺したが、慌てて言い訳を探す。
「そうだ!もうけっこう時間経っちゃったから、そろそろ部屋に戻ろう。明日も、早いだろうし」
「あ!そ、そうですね、すっかり時間を忘れてました」
ソラはさっと立ち上がると、すぐさま小走りで廊下に続くドアへと向かって行った。
おれもその後ろを見守りながら付いて行く。
そしてふと、さっきの気持ちが舞い戻ってきた。そうだ。おれが未熟かどうかなんて、関係無い。
今彼女の気持ちを知っているのは、おれだけなんだから。
おれがしっかりしないと。彼女を支えてあげないと。
妙に、心臓がどきどきしていた。心拍数が上がっているのが分かる。
この鼓動の高鳴りは何だろう。守らなければ、と思う気持ちの表れ?なんだろうか。
分からないけれど。
その謎の使命感めいたものを胸に、おれは彼女の後を追って行った。




