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Re:D.A.Y.S.  作者: 結月亜仁
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らしさ

「…あ。ユウト」

ソラは、驚いた表情でおれを見据えた。


おれも、こんなところに彼女がいるなんて思ってもみなかったから、少したじろいでしまった。


「どうしたんですか?こんな夜更けに」

「おれは、その、ちょっと、寝付けなくて…。ていうか、ソラもどうしてここに?」


「うふふっ」ソラは急に笑い出した。

「わたしもですよ。おんなじですね」

「…あ、そうだったんだ…。あれ?おれ変なこと言った?」

「いえ、なんか、考えてること一緒だなあって」

「まあ、そうだね。なんか、眠れなかったら、こう、外に?出たくなるっていうか?落ち着くかなって考えるよね…」


今まで眠れなくても一度も外に出たことが無かったのに、ぱっとそんなことを口走ってしまった。


何変なところで嘘ついてるんだ、おれ。そういうことを言いたいんじゃないのに。


ソラはにこりと微笑みながら、隣の空いた椅子を見た。


「…座ります?」

「…あ、ああ」

ずっと立ちっぱなしってのもおかしいし、彼女の言う通り、彼女の隣の席に腰を下ろす。


椅子はひんやりとしていて、素肌が触れた瞬間、びくっとしてしまった。おれは落ち着いて、座り直す。


沈黙が訪れた。


どうしよう。

話すことが見つからない。ソラがいるなんて思わなかったから、そんなもの用意していない。用意していたとしても、話せなかったかもしれないけれど。おれの場合は、自分から話しかけるの、苦手だから。


でも、彼女を見ると、話しかけてほしいようには見えなかった。椅子の背もたれに寄りかかりながら、ぼーっと満月を眺めている。じゃあ、おれもこのままでいいのか。いいん、だよね?


おれも、背もたれに寄りかかって、身体の力を抜く。でも、全然心が休まらない。眠気も襲ってこない。むしろ、逆だ。妙に緊張してしまう。


何で、こんなに落ち着かないんだろ。身体の奥がむずむずする。


「なんか」不意にソラが口を開いた。彼女の瞳が、すっとおれへと向けられる。


「こうして、二人きりで話すのは、久しぶりな感じがしますね」

「ああ。そう、かも」


こうして二人きりなのは、ソラが目覚めてから初めてかもしれない。あれから、ずっと皆で行動していたから。それにソラは就職活動をして、おれたちは仕事をしていたため、そういう機会がなかったんだ。


「あの時は、すごく大変でしたね…」

ソラは懐かしむように夜空を見上げた。おれもつられて、目線を上へと向ける。満天の星空にぽっかりと光の穴で穿たれているような月が、煌々と輝いている。


「ああいう体験は、もう勘弁かな…」

おれは月を見ながら呟くと、遺跡での出来事が思い出される。巨人に襲われて、一人はぐれてしまって、ネイビーと戦って。本当に長い一日だった。


「…でも」ソラは視線をおれに向けて、にこりと笑った。


「皆さんに、出会うことができた」

「…うん」


おれは頷いた。まあ実際は、ショウの指示でそうなったのかもしれないけれど。結果的にソラを助けることができたのは幸いだった。


「ここに来て最初の頃は、上手く馴染めるか心配だったんですけど。皆さん、とても良い人たちだから。ゲンはちょっと顔が怖いけれど、実はすごく真面目で、気遣い上手で。ハルカはお姉さんみたいな人ですよね。本当に頼りがいがあるというか。コウタはとっても面白くて、明るくて…。時々、何を言ってるのか分からないですけど。ミコトは、ちょっとドジなところはあるけれど、誰よりも優しくて、知識があって…」

ソラは皆のことを嬉しそうに語っている。


「意外だったのは」一言間を置くと、ソラは覗きこむようにおれを見つめた。


「ユウトって、けっこう静かな人だったんですね」

「そ、そう?」

「ええ、初めて遺跡で会った時は、もっと色々話してくれたというか。でも、皆さんといる時はほとんどしゃべらないですよね?」

「あの時は、まあ、初対面だったし」


ソラに言われて改めて思い返す。何を言っていいか分からず怪しまれないよう土下座したことが思い出されて、少し恥ずかしくなってしまった。あれは土下座要らなかっただろ、と我ながら後悔している。


「…おれって、皆の話してるところ見てるだけで、いいからさ。それに、なんだろ。皆が楽しく話してるなら、別におれが話さなくていいっていうか…」


「そうやって、皆さんを遠くから眺めている。輪を崩さないように。でも、その輪がくずれそうになったら、突っ込んで補強してくれますよね。今日のミコトが言ったことに対しても、こう、うまく指摘してたじゃないですか」


「確かに、今日ミコトが変な言い回しをするから、男らしくて豪快な、だろって指摘したけど。おれはそんな大層なことを考えて言ったわけじゃないよ?」


「いいえ、それがユウトの優しさだと思うんです。縁の下の、力自慢?って言うんでしたっけ?」


「それを言うなら、縁の下の力持ち、でしょ。なんでおれ縁の下で力自慢してるんだよ」


「ほら、今だって」

ソラがくすっと笑って、おれははっとした。全く意識していなかったけれど、いつの間にかそう口にしていたのだ。まるで、前にも同じように言ったことがあったみたいに、するっと言葉が流れ出てきた。


「ん?でも今のとさっきのは状況違うんじゃ…」

「いいんですよ、そんな細かいことは。それがユウトらしさだって、言いたいんです」

「おれ、らしさ…」


おれは地面に目を落とした。自分らしさ。今までそんなこと一度も考えたことなかった。とにかく、死なないよう、振り落とされないよう、それだけ考えていたから。でも、記憶が無くても、戦うことができたし、知らない言葉も、自分のこと以外はふっと思い出せる。


もしかすると、記憶を失う前と変わらない部分はあるのかもしれない。ユウトという人間の性。根っこみたいなものが。


とても不思議だ。記憶を失ったことで、おれは昔と性格や考え方が違う部分もあるだろう。でも、おれはおれなんだけれど、知らないうちに、その昔のおれに引っ張られている。どんどん“ユウト”に近づている、そんな感覚。


だったら。


記憶を欲しているのも、“衝動”が訪れるのも、お前が原因、なんだろうか。


「そんな皆さんを見ていると少しだけ…」

ソラは俯き気味に呟いた。最後の方は何を言ったか声が小さすぎて聞こえない。

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