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Re:D.A.Y.S.  作者: 結月亜仁
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死闘

おれはネイビーに焦点を集中させた。


短剣を構えようともせず、ぶらんと手を垂らしている。全然気迫を感じないが、油断してはいけない。


ぴくっと、短剣がほんの少し動いた気がした。


来た。


ネイビーが床を滑るように駆けてきた。低い姿勢から短剣を切り上げてくる。おれは剣でそれを迎撃して、短剣を弾く。


威力はそこまで強くはない。重い剣の方が短剣の威力を上回っているからだ。ただ、短剣を繰り出す初速が異常に速い。


剣で弾いた時には、もう次の攻撃に移っている。回転率がこちらの比ではない。というか、こちらから攻撃する暇がない。


連撃。連撃、連撃、連撃。ついでに連撃。短剣が四方八方から襲ってくるのをおれはただ防ぐ。


今のところ、攻撃はできてないが、捌けないほどではない、と思った。動きも、ずっと見ていれば慣れてきた。これなら。


いや。


違和感を覚えた。おかしい。これぐらいなら、おれだって防げる。おれでも対応できている時点で、何か変だ。


連撃の途中で、短剣を剣で弾いた時だった。視界の隅で、武器を持っていないはずの左手が僅かに動いた。


「っ!!」寸でのところで、おれは身体を上に反って避ける。すれすれを、短剣の刃が通り過ぎた。


「っらあぁっ!!」おれは身体を反った状態から、そのままネイビーの腹を蹴った。

どすっと鈍い感触が足の裏を伝わって、ネイビーを短剣の射程外に突き放す。


危なかった。左手にも武器を隠し持っていたとは。気が付かなかったら今頃首を掻っ切られていた。


「…ほう」


ずっと戦いを見ていたホワイトが呟いた。


「あなた、ずいぶん冷静な戦い方をするのですね。少し意外です。傭兵はもっと野蛮な人種かと思っていたのですが。うん、悪くない」


ホワイトは顎に手を当てて、うんうんと頷いている。なんなのだ。おれの戦い方を、分析されていた?何のために?しかも、褒めているのか?敵なのに?


傭兵に対する偏見は酷いものだが、こいつの言動の意味が分からない。けど、そうやって分析されるのは厄介だ。自分を見透かされているみたいで、やりづらい。


「ですが、それだけでは、無駄ですよ」

ホワイトの瞳が、笑っているような気がした。


ネイビーがまた動き出した。


次は短剣の二刀流だ。ネイビーは短剣をくるっと逆手にもって、するすると床を走る。


こいつ、動きが独特だ。まるで、蛇みたいだな、と思った。軽やかなのに、癖のある滑らかさを感じる。さっきの攻撃も、どこか陰湿だ。


とか、おれも相手のこと分析している場合じゃないんだけど。


おれは足に力を込めた。ぎり、と左脚を踏ん張って、床を蹴る。


二刀流だと、単純にさっきの攻撃頻度の倍が襲ってくる、ということだ。こちらが動かなければ、ただのサンドバッグにされてしまう。


ソラと離れてしまうのは少々心配ではあるが、なぜか今やつらはおれを狙っている。全くもってやつらの行動は理解不能だけど、この際、そこはもういい。


おれを狙っているなら、自分がやりやすいように倒す。それだけだ。


おれとネイビーは相互に動きながら、それぞれの動きが重なる瞬間に、斬り結ぶ。ギン、という手ごたえが全身に響いた。ネイビーは、両手に持った短剣を器用に使って、一撃の重い剣を防いでいる。


ふいに、手ごたえが消えた。ネイビーが踏ん張るのを止めて、おれは少し前のめりになる。それと同時に、刃が首元に迫った。


おれは顎を上げて、刃を避けた。刃の先端が首を掠めて、首から血が僅かに滲んだ。浅く、切られた。


でも、ネイビーの攻撃は続く。すれ違う一瞬で、二振りの短剣を交互に突き刺してくる。


おれはぎりぎりのところで剣を構えて防いだが、左胸の横を短剣で裂かれてしまった。


こいつ、確実に急所を狙ってきている。喉、脇、肺、心臓。どれも当たれば致命傷は免れない。


おれは逃げるように後退した。動きを止めてしまってもだめだ。奴の、格好の的だ。二刀流になってから、こっちの剣一本では防ぎきれなくなってきたし、これはますますやばい。


どうする。どうするどうする?


考えろ。考えを止めるな。動きを止めるな。常に考え続けろ。動き続けろ。


——それだけでは、無駄ですよ。


ホワイトの言葉が、頭を過った。それだけでは、無駄?何が、無駄なんだ。考えることが?もっと、何か必要なのか。それだけでは。分からない。それだけ?それって、何?


「…あなたも」ホワイトの声が、耳元で囁くように聞こえた。


「単なる傭兵に、過ぎないのですか?」


おれは驚いて振り返った。いない。近くにホワイトはいない。こちらをずっと、遠くから見ているだけだ。


その目が、嗤っていた。


———あ。


視線をもとに戻そうとした時、視界の隅に、ネイビーがいた。短剣がおれの心臓を捉えている。


いつの間に?違う。おれが、動きを止めてしまっていた。そうだ。油断した。考えていたから。


防ぐものなんてない。薄っぺらな装備では、耐えられない。剣も届かない。もう遅い。


どうする。どうする?どうするって、何を?考えろ。考えろって、何を?


考えが、追いつかない。考えでは、追いつけない。


あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。


「だめぇっ!!」


え。


視界が白くなった。ソラだ。ソラの髪。ソラ?え?なんで?ソラ?嘘だろ?

それじゃだめだ。意味が無い。だってそうだろ。何のために、戦って。誰のために、ここまで、頑張ったんだ。


…頑張った?


時間は巻き戻せない。止められも出来ない。短剣は止まらない。


いや。


知っている。

おれはこれを、知っている。


ノイズが走った。


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