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Re:D.A.Y.S.  作者: 結月亜仁
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未知との遭遇

何が起きたか、理解できない。ただ、目を逸らしていた隙に、目の前を歩いていたコウタが消えてしまった、のは分かる。ほんの数秒前まではそこにいたのに、まるで、瞬間移動したみたいに、消えてしまった。


「コウタっ!?」

異変に気付いたゲンがコウタの名前を呼ぶ。返事はない。

どこ、いったんだ?


「…痛ってぇ…」

本気でいなくなったのかと思ったが、左の方から微かな声がした。コウタだ。よく見れば、突き出た岩を背に、倒れている。


「コウタ君!どうしたの!?」

ミコトがコウタの方へ駆け寄っていく。

「おい、お前ら来んじゃねぇ!」コウタは目を見開いて叫んだ。来るな、とは、どういうことなのか?一体、何があったのだ。全然、頭が追いつかない。

その時だった。


ぐ、る、る、る、る、る、る、る。


心臓にまで響く地を這うような低い音。どこからその音が出ているか、窪地内に反響して分からない。

そう、まるで、獣の威嚇音みたいな。


「ゲン!後ろっ!」

ハルカの声が聞こえた。同時に、「うおっ!?」とゲンの驚いた声が響く。

おれはすぐにゲンの方に振り向いて、一瞬、頭が混乱しそうになった。

目の錯覚かと思うくらい、真っ黒な闇が、ゲンを襲っている。この窪地は太陽の光を遮るものがなくて明るいというのに、その闇だけ、切り取った絵のように真っ黒だ。

意味が分からない。闇って、動くものなのか?


いや。


よく見たら、赤い光が二つ。眼だ。不気味に輝いて、おれたちを睨みつけている。

そいつは、ちゃんとした生き物だった。妙に細い腕や、顔周り、首周辺に生えた黒い毛。爬虫類のように顎まで裂けた口。でも口の先端には嘴のようなものが付いている。ただ、羽は無くて、でかい。三メートルぐらい、あるんじゃなかろうか。それに、特徴的なのは尻尾だ。先端が鋭く尖っていて、鞭のようにしならせている。尻尾まで含めると、ゆうに五メートルはくだらないだろう。


ぐ、る、る、る、る、る、る。


また、重低音が響いた。別に、大きな咆哮をしたわけではないのに。

脚が、竦む。


「このっ!!離れろっ!」

ハルカが太腿に装備していた小さなナイフを、そいつに向かって投げた。

そいつは、軽やかに後ろにステップして、飛んでくるナイフを避けた。でかい図体のくせに、動きが俊敏だ。足音もほとんど聴こえない。


「なんなんだ、こいつ…」

やつに押さえつけられていたゲンが起き上がって呟いた。

いや、おれも知りたい、と思ったけれど、ゲンたちも、こいつのこと、知らないようだ。だったら分かるはずが無い。


というよりも。

感覚的に理解した。悪鬼たちが消えた理由。たぶん、いや確実に、こいつが原因だ。こいつが来たから、悪鬼たちは遠くへ逃げたんだ。


だったら、こいつはおれたちが窪地へ来た時からいたというのか。全く気配を感じなかった。周りをしっかり見ていたわけではなけれど、こんな黒くてでかくて目立つやつ、見逃すか?


おれは、ちらとゲンたちを見た。皆、もう武器を手に取っている。

おれも後ろに担いでいる剣の柄に手を伸ばす。けど、触れる手前で手が止まる。

駄目だ。戦えない。戦い方を知らない。こんなやつとどうやって戦うのか。じゃあいったいどうすれば?おれには何が------------。


「っ!!馬鹿っ!!」

「うえっ!?」

何か、柔らかくて黒いものが覆いかぶさってきて、おれは驚いた。そして、そのままそれと一緒に、後ろへ吹っ飛ぶ。


「あんた、何ぼーっとしてんのよ!死にたいの!?」

「えっ?あっ、ハル、カ?」

気が付くと、ハルカがおれを押し倒した状態になっていた。そしておれは一瞬、思考が停止しかけた。


抉れている。地面が。この窪地は岩で出来ていて、相当堅いはずなのに。

自分がさっきまで立っていた場所に黒い化物の尻尾が、突き刺さっていたのだ。

あ、と声を出そうとした。でも、出ない。出せない。肺に溜まった空気を外に出せない。


なんだよ、これ。


それで、やっとハルカの言っていた意味が分かった。

「早く立って!逃げるわよ!」

ハルカがおれの服を引っ張った。でも、おれはまだ抉れた地面から目が離せない。恐怖が、足元から這い上がってくるみたいに、感覚が冷たくなっていく。


死?死ぬの?いや、死んでいた?おれが?


途端に、身体に電流のような衝撃が走った。

逃げないと。それは、自分が意識したわけじゃない。生物としての、本能、みたいな。逃げなきゃやばいって、身体が言っている。


周りを見る余裕なんて、無い。ただ、窪地の外側へ、走る。足を限界まで回転させる。でも、あれ、おかしいな。こんなに、遠かったっけ?走っても走っても、壁との距離が縮まらない。


身体も妙にふわふわする。軽いのではない。足に力が入っていないのだ。足だけじゃなく、全身の筋肉も、力の使い方を忘れたみたいになっている。


「きゃああっ!!」

後ろから甲高い悲鳴が聞こえた。振り返ると、ミコトが躓いて、うずくまっていた。

黒い化物が、迫っていた。赤い眼光を輝かせて、ミコトに襲い掛かる。

やばいとも、危ないとも思えなかった。身体がフリーズして、完全に動きを止めていた。


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