巨人の間
コウタに続いて奥の通路を進むと、また別の部屋にたどり着いた。
「今度は、なんだ…?」
地面を見渡すと、部屋いっぱいに正方形のタイルみたいなものが敷き詰められている。
部屋の幅は、二十五メートル四方ほどあり、わりと広い。
天井には幾つか穴が空いていて、外の光が差し込んでいるせいか、さっきの部屋より明るかった。天井が崩れて空いた穴ではない。意図的に掘られた穴のようだ。
ある一定の距離を置いて、光が床に降り注いでいる。
じゃあ、上はどうなっているのだろう。ここは地下のはずだから、森の地面に、穴を掘っている、とか?
と、視線をもとの位置に戻した時、視界に大きな影が映った。
「…っ!?」
一瞬おれは身を固めた。でも、何も起きない。
影の正体は、三メートルはあろうかという、巨人の像だった。巨人は部屋の中心で、光を浴びながら、重々しく佇んでいる。
「なんだよ、この部屋何もねえな」
コウタがちっ、と舌打ちした。何か、お宝的な物を期待していたのだろうか。
確かに、この部屋は巨人が中央に居るだけで、他に装飾品らしきものは何も無い。閑散とした、殺風景な部屋だ。
何のための部屋なんだろう。
「…あ」ミコトが何かを指さした。「あれ…」
巨人の後ろ側。その壁に、ぽっかりと暗闇が出来ていた。違う。通路だ。さらに奥に続く通路がある。今までの通路よりもだいぶ幅が広く、この巨人でも通れそうな大きさだ。
というか、どれだけ広いんだ、この遺跡。
「にしても、不気味な像だな…」
ゲンが像を見上げて、口をへの字に歪めた。
誰かをもとに造られたのだろうか。直立しているその巨人の像は、鎧を身に纏っている。腰には巨人相応の大きさの剣まで携えてある。顔は兜らしきものを被っているせいで、よく見えない。
「昔の戦士か何か、とか…?」
おれはさっきのミコトの話を思い浮かべた。魔族が造った遺跡だとしたら、この巨人も、魔族が造ったもので、まず間違いないだろう。魔族たちは、こういった趣向の鎧を身に着けていたのだろうか。
まあ、そこらへんはけっこうどうでもいいんだけど。
「…んお?」コウタが何かに気付いたようだった。「こいつ、なんか持ってるぞ…?」
よく見れば、鎧巨人像の左手には、丸い石みたいなものが握られていた。コウタはそれを確かめようとして、像に近づく。
おれは急に、予感めいたものが脳裏を掠めた。
一体の像。飾り気のない広い部屋。敷き詰められたタイル。
変だ。
これ、どこかで見たことがある。どこで?分からない。でも、おれはこれを知っている。上手く言葉にできない。けど。
そう、まるで。
ガコン、という音がしたのと、気が付いたのは、ほぼ同時だった。
「な、なんだっ!?」ゲンが慌ててコウタの方を見た。コウタは、自分の足元をじっと見ている。
「…な」コウタは変な顔でこっちに向いた。「なんか、踏んだ」
嫌な予感がした。だいたい、おかしいだろう。部屋には、何かしらの意味があって造られているわけで。像と、タイルがあるだけ。だとしたら、答えは一つしかない。
ここは、“罠”が仕掛けられた部屋だ。
それを、なぜ分かったんだと自分自身に問う前に、すぐ変化が現れた。
巨人像が、動き出したのだ。ゆっくりと、着実に。
「う、嘘だろ、おい」コウタは顔を引きつらせて、一歩後ろへ下がった。
巨人像は、長い間動かなかったせいか、ポロポロと埃やら苔やら小石やらをまき散らしながら、身震いしている。さながら、眠りから覚める直前だ。
「まさか、“罠”!?」ハルカが声を荒げた。それさえも、ごごご、という雑音の音で掻き消えていく。
「そ、それはおかしいよ!」ミコトが反論するように口を開いた。
「だって魔族が絶滅したのは数千年前だよ!?そんな昔に作られた遺跡で、本当なら“罠”なんて起動するはずない!そんな遺跡も、聞いたことがない!」
「実際動いちゃってるんですけど!?」
確かに、不自然だ。そもそも、動力が見当たらないのに、こいつはどうやって動いているんだ?これも、魔族の力というのか。
それより、さ。
早く逃げた方がいいんじゃないか?
急に、兜の中の眼が光った。
真っ赤だった。
「————————————————っ!!!!!」
軋む音とも、咆哮ともつかない叫び声が、部屋中に響いた。金属同士が擦り合うような、頭の中が掻き回されているみたいで、嫌な音だ。




