表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:D.A.Y.S.  作者: 結月亜仁
37/116

霧の中で

深呼吸をした。


濃密な水の匂いが鼻孔を擽る。


あんなに天気が良かったのに、今はもう、ほとんど何も見えない。


白だ。右も左も、前も後ろも、上も下も。さっきまで、どちらに向かって歩いていたのかさえ、分からなくなってしまいそうだ。まるで、ショウのいた世界を彷彿とさせる。


焦るな。そうだ。こうなることは予想していたはずだ。


化物の素材を集めて、無事に帰って、はい、終わりで済むはずがない。それは分かっていたことだ。


「…皆、いるか?」


前の方から声が聞こえた。ゲンの声だ。すぐ目の前はミコトがいるのだが、それ以上前になると何も見えなくなってしまうので、声だけが頼りだ。


「うん」「いるぜ」「ええ」ミコト、コウタ、ハルカの順で返事が返ってきた。「…おれも」おれは一番後ろから、最後に返事をした。


「なんだって急に霧なんか出てくるんだよ。…ったく」

コウタが愚痴っぽく呟いた。姿が見えないおかげで、どんな顔をしているか分からない。だいたい想像はできるけど。


「動かない方が良いんじゃ…」

ミコトの不安げな声が響いた。


確かに、そうかもしれない、と思った。急に霧が出てきて、皆、動揺してしまっている。霧に覆われる前に抜け出せればよかったが、さすがにそこまでは予期できなかった。


「今さら焦ってもしょうがないわ」ハルカの落ち着いている声音が霧の奥から聞こえた。こういう時、冷静でいられるハルカは頼もしいと思う。


「皆、出来るだけ、離れないように移動しましょ。どうせこのまま突っ立ってても埒があかないから。ゲン、木に付けてある目印は分かる?」


「…いや、どこにあるかまだ分からないけど、あっちの方向だったと思う」


「じゃあ、まずはそれを見つけないとね。近くにあるはずだから、それを探しましょう」


そうだ。おれたちには、ここまで付けてきた目印がある。それさえ見つけてしまえば、もうこちらのものだ。


うっすらとハルカの姿が視界に映った。ナイフを持っている。それを近くにある岩に突き立て、引っ掻かれたような目印を描いた。


「動くたびにこの目印を付けていくから。後ろの人はそれを確認して来て」

「分かった」


おれは聞こえるように少し声を張り上げて応えた。


おれたちは、視界に必ず誰か見えるようにゆっくりと、歩幅は小さく移動していった。


森が霧で覆われることは、そう珍しいことではないという。

ただ、霧に包まれてしまうと、普段でも迷路みたいな森の中が、より一層複雑化する。そこで迷ってしまえば、一巻の終わりだ。


いやそうでもない。迷ったら迷ったで、幾つか霧から抜け出す方法がある。


その一つが、現在実行している来た道の目印を辿って帰還する方法だ。そうすれば、いくら霧が晴れなくても、目印を辿るだけで、いつかは森から抜けられる。


それ自体も、そう簡単な作業ではないけれど、とりあえず見つけることができれば、帰る道が示される。


そのはずだ。でも。

何故だか、胸騒ぎが収まらない。


それから数十分。おれたちはゲンが付けた目印を探して回った。


「…くそ。だめだな、ここでもない」


ゲンは軽く舌打ちをした。ずいぶん、入念に調べているつもりだが、目印が見つからないみたいだ。


「ほんとにここらへんで合ってるのかよ?」

コウタは少し苛立っているようだ。ずっと似たような景色で、同じような動作を繰り返していたら、飽きてくるのもわかる。


いっそ、闇雲に走り抜けてみたい衝動に駆られる。


そうしたら、もしかしたら霧を抜け出せるかもしれないんじゃないか。こんな地道な動作をする必要ないんじゃ?


しかし、それこそ命取りだ。運ほど、理不尽なものはない。もしかしたら、という不確定要素に掛けていたら、命が幾つあっても足りないことは、この数日で身に染みて分かっている。


それに。


やはりこれはたぶん、ただの霧ではない。ショウからここに行けと言われたことと、何らかの関係があるはずだ。そういう確信があった。


ということは、これは、仕組まれていたことなのか?


何のためにかまでは分からない。この霧同様、手で掴もうとしても、掌には何も残らない。


それにしても、この霧からは早く抜ける必要があった。例えば、もし本当にこの森に住む魔物に遭遇してしまったら、わりとまずいことになる。


霧の中の戦闘は慣れていない上に、仲間たちとの連携も取りづらい。だから、できればそうなる前に、何かしらの手を打っておくべきなのだが。


「…ん?」妙な声が響いた。これはたぶんゲンだ。


「んんん?」

「どうしたのよ?」ハルカが尋ねた。


「いや、あれ…」

おれたちはできるだけゲンに近づいて、ゲンが指さす方向を見た。


といっても、白過ぎて、よく見えない。いや、霧の密度が薄い部分から、うっすらと何か映っている。


あれは、なんだ?


木ではない。もっとごつごつしている。それが積み重なっているような。もしかして、柱、だろうか?それだけじゃない。その奥には、それよりも大きな。あれは。


「…家?」

霧の向こう側に映る、大きな影。それはどことなく、家っぽいシルエットで。


「…遺跡」

誰かがそう言った。ハルカだったろうか。


その時、思い浮かべたショウの口元が笑った気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ