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Re:D.A.Y.S.  作者: 結月亜仁
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生きる術

はあ、と無意識に溜息が零れた。


「…ユウト」

コウタがぽろっと口を出した。


「…ん?何?」

「最近お前って、何か変わったよな」


心臓が一瞬止まるかと思った。何の前触れも無く、そんなことを言い出すから。


「そ、そうかな?」

おれは苦笑いを浮かべた。なんだろう、さっきゲンにも同じようなことを言われた気がするし、同じように受け応えた気がする。


「なんかなぁ、落ち着いたっていうか、よくしゃべるようになったっていうかさ」

コウタは腕を後頭に回して、天井を見上げた。おれもつられて天井を見た。湯船から沸き上がる湯気が、もくもくと天井に昇っていく。


「俺、お前ってもっと怖いやつだと思ってたぜ」

「…それ、どういう意味?」


おれは眉をひそめて首を傾げた。どういうことだろう。怖い?そういえば、前の自分がどんなやつだったか、まだ聞いたことがなかった。

自分から聞くわけにもいかない内容だったし、ちょっと気になるところではある。


「まあ、それが良いか悪いかは俺には分かんねーけどさ、俺は…」

コウタはそう言って数秒押し黙った。


なんだ?俺は?


そして、急に立ち上がった。おれは水飛沫が目に入って、顔を伏せた。


「まあいいか!」

「ちょっ、え?何?」

「俺、もう出るわ」

コウタは踵を返して、風呂場の扉へ歩いて行く。


「え?もう出るのか?」

「もうってお前、これ以上浸かってるとのぼせて死んじまうよ」


コウタは勢いよく風呂場の扉を開けて、脱衣所の方に出て行ってしまった。


全然コウタの行動の意味が分からないが、とりあえず、おれも湯船から立ち上がって、風呂場を後にした。


着替えを済ませて脱衣所の外に出ると、廊下が左右に伸びている。すると、廊下の右側から、美味しそうな匂いがふわっと漂ってきた。


匂いが来る方角には、宿舎の中庭がある。コウタと共に廊下を道なりに進めば、焚火で鍋の具合を見ているゲンの姿が見えた。


「今上がった。おーい、飯はまだか?」


中庭には、簡単な台所が設えられていた。それに、六人ぐらいが囲めるほどの木で出来たテーブルと椅子。椅子は太い幹の木をそのまま切っただけのもので、椅子と呼べるかどうかわからない。その椅子に、コウタがどかっと座った。


「何偉そうな親父みたいなこと言ってんだよ」ゲンがコウタを睨むと、テーブルの近くにいたハルカが振り返った。


「そんなこと言ってたら、あんたごはん抜きにするわよ」

ハルカはわりとマジな目で言った。お腹が空いてイライラしているのか。やっぱりちょっと怖い。


「別にいいじゃん、今日はそういう順番なんだからさ…」

コウタはテーブルに突っ伏して愚痴っぽく呟いた。


「さ、皆こっちの準備はできたよー」エプロンをしたミコトがテーブルの上に料理を載せ始める。


おれたちはここで生活する上で、当番制を作ってローテーションを組んでいる。

今日はおれとコウタが水を用水路から汲んで風呂に入っている最中に、ゲン、ハルカ、ミコトが料理する。

次の日は女性陣が風呂の準備と入浴を済ませ、男どもが料理を担当していく。そういうふうに、家事を役割分担している。


今日の献立はたくさんの野菜と干し肉を煮込んだスープ。それに蒸かしイモ。以上だ。


食事の準備ができると、皆テーブルを囲んで座った。


「それじゃあいただきます」


おれは掌を合わせて、食材たちに感謝した。いや本当に、この傭兵業をしていると、なんというか、食事の有難味が身に染みる。


お椀を手に持って、注がれたスープを啜る。野菜の甘みと、干し肉のうま味が良い出汁を出していて、それが口いっぱいに広がった。空腹の胃袋を満たしていく感覚は、とても心地が良い。


それに、蒸かしイモ。ただイモを蒸かすだけじゃないか、と思うかもしれないが、これが意外と難しい。

火の調節を誤ると、熱が通らず固すぎたり、はたまた焼き過ぎて固くなったりしてしまうため、取り出す絶妙なタイミングと、火の加減が必要だ。

おれはこの一週間で何度も失敗して、ハルカに怒られた。


今日はミコトが調理してくれたようで、ほくほくで柔らかく、口に入れた瞬間、ほろっと噛まずに崩れるほどだった。さらにこの蒸かしイモの上にチーズをのせて食べると、美味さが格段に跳ね上がる。


疲れて腹が減っていたこともあって、もう何もかもが美味く感じる。

美味いんだ。けれど、そう、本当に贅沢を言うならば。


「うっすいなぁ…」とコウタがぼそっと呟いた。


調味料は値段が張るから、できるだけ、使ってはいない。スープも干し肉が僅かに入っているだけで、野菜多く入れて誤魔化している。蒸かしイモは、安くて、簡単に調理できて、胃も膨らむから、コスパがいい。


「コウタ」ハルカが低めの声音で言った。「聞こえてるわよ」


コウタは口に含んだスープを吐き出しそうになった。「い、いやいや、美味いぜ!?でもさ、これにほんのちょっと調味料を加えるだけで、もっと美味くなるんじゃないかなーとか、思ったりしたわけで…」


コウタは必死に弁明を語っている。コウタの言うことも、分からなくはなかった。実際、おれも同じようなことを思ってしまっていた。まあ、まずくはないのだけれど、自然の味が強いというか。


でもおれは好きだよ、そういうの。うん。


「仕方ねえよ。金無いんだから。贅沢言うな」ゲンがぎろっと睨むように言った。


おれたちは結局、貧乏だ。そんな誇らしく言えることでは、ないのだが。


貧乏なので、金を節約しなければならない。そこで一番金の消費を抑えられるのは、食糧だ。


高いものを買ったり贅沢をしなければ、なんとか食っていけるのだけど、そういうこともあって、特にコウタなんかは食に飢えている。


他にも、服や生活用品で削減できるものは極力節約している。だから、色んなものに気を配らなければ、すぐに支障が出てきてしまうから、気を抜くわけにはいかない。


生きることは、そう簡単ではない。


そうやって生きていく術を、おれはこの一週間で身に染みて理解した。


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