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Re:D.A.Y.S.  作者: 結月亜仁
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戦いの匂い

息を吸うと、土と草の混ざった匂いが胸一杯に広がった。別に、嫌な匂いではない。けれど、好きな匂いでもない。ちょっと咽そうになるから、良い匂いではないかもしれない。


地面のひんやりした冷たさが、服を通り越して伝わってくる。腹這いになっているから、腹が冷える。腹が痛くなったような気がした。気のせいか。


おれは前進した。いわゆる匍匐前進、というやつだ。気付かれないように、ゆっくり、ゆっくりと近づいていく。


がさっという音で、おれは動きを止めた。自分で、枯れ葉を踏んづけてしまったようだ。恐る恐る前を見る。大丈夫だ。まだ、気付かれていない。


バクバクと心臓が脈打っているのが分かる。怖いのか。まあ、怖い。でも、進むしかない。そうじゃないと、いつまで経っても怖いままだ。


ある程度の距離を詰めると、おれはうつ伏せの状態から、膝立ちの状態へと移行した。生い茂った草の陰の裏にいるから、たぶん、奴らには見えない。

見えないよね?


見えていないことを祈りながら、おれは後ろへ合図を送った。ただ、親指を立てるだけだが。でも、伝わったようだ。後ろから、がさがさと音がする。


もうちょっと、静かに移動してくれるかな、と思いながら、顎に垂れてきた汗を手の甲で拭った。


まあ、人のこと言えないけど。ただ、見つかった時被害を被るのは、おれなんだよね。


一瞬、静けさが場を満たした。


この時間が、一番緊張する。いつ始まるのか。始まらないのか。始まったら始まったで楽なのだが、始まらないならそれでいいんじゃないかとも思えてくる。いっそのこと逃げてしまいたいけれど、そうもいかない。この半殺しにあったようなこの気分、人によってこの緊張感がたまらないというやつはいるだろうが、自分はそんなに好きになれない。


しゅっ、と風を切るような音がした。

きた、と思った。


そして、立て続けに、ぎゃっ、という悲鳴じみた声が聴こえた。見れば、やつらのうちの一匹が、転げてしまっている。他のやつらは、それに気を引かれてこちらに背を向けていた。


…今だ。


おれは背中に回した掌で剣の柄を握り、飛び出した。やつらの驚いた顔が、こちらへ向けられる。いや、やつらの表情なんて分からないから、驚いているんじゃないかと勝手に思っただけかもしれない。


刹那、心のどこかで、戸惑いが生じた。

たぶん、そのせいだ。おれが振り切った刃は、間一髪のところで避けられてしまった。


何やってんだ。


カァン、と地面に刃が叩きつけられる音が響く。


作戦では、今の不意打ちで一匹は仕留めておきたかったところだが。しくじった。

けれど、そう後悔する時間を、やつらは与えてくれない。今の失敗で、やつらの敵意が全部こっちに向いてしまった。


おれは、剣の切っ先をやつらに向ける。一、二…五匹。動けないでいるやつが一匹いるから、実質四匹。


額から、汗が吹き出た。

けっこう、やばめ?


この、一見猿のような見た目をした生き物は、ザルシュ、と呼ばれる魔物らしい。仲間意識が強く、とても好戦的で、凶暴だ。腕が発達していて、握られたら剣をもへし折る握力があるとかないとか。


そんなの数匹と睨めっこしている自分が馬鹿みたいに思えてきたけれど、そんな場合じゃない。


どうしよう。まじで。


迂闊に動いたら、それはそれで危険だ。だからと言って、ずっと止まっているわけにもいかない。


焦りと緊張と不安で、心臓が喉から飛び出しそうだ。


その時、横の草むらから声が聞こえてきた。

「うぉああああああっ!!」

それはおれとザルシュたちの間を通り抜けていって、樹の幹にぶち当たると思いきや、直前で停止した。


「すまん、大丈夫かユウト!」

壁かと思われたそれは、ゲンだった。ゲンが盾を構えて突進してきたのだ。


「…ああ、なんとか!」

おれは汗で滲んだ剣の柄をもう一度握り直した。まあ、もうちょっと早く来てほしかったところではあるかなと思ったが、この際贅沢は言ってられない。


これで、二対四だ。まだ数的に劣勢ではあるものの、一人じゃない、というのはとても心強い。


ここからどうするか。一人で二匹を相手するのは、まだ骨が折れる。「しゃあ!こいやぁ!」と隣でザルシュを煽っているゲンはたぶん二匹でも対応できるだろう。


おれは、どうなのか。そんなポテンシャルはあるのか。自分自身に問いかける。


「グガッ!?」

不意に、ザルシュの一匹が奇声を上げた。襲ってくるのかと思って身構えたが、そうではなかった。よく見れば、そのザルシュの胸には長い何かが突き刺さっている。


これは、槍だ。

胸を貫かれたザルシュはそのまま、どさっとその場に崩れ落ちた。


「よっしゃあぁあああ!まず一匹ぃ!」

草陰の裏から姿を現したのはコウタだった。軽くガッツポーズを決めていて、何やってんだろうと思ったけれど、その手には武器の槍が無い。どうやら、槍を投げてザルシュを仕留めたようだ。


「いいぞコウタ!」

ゲンがザルシュと睨み合いながらもちょっと高めの声音で言った。表情は強面であまり変わらないが、心なしか、喜んでいるのかもしれない。


「グゥアアアアア!!」

すると、一匹のザルシュが、コウタ目掛けて駆け出した。仲間意識が高いザルシュは、仲間がやられて頭に来たようだ。


「え、うそ、まじ、今俺武器持ってないからぁああああ!」

コウタはザルシュに背を向け、無様に逃げ出した。あとのこと、考えてなかったのか。どうしよう、すごく格好悪い。ちょっとすごいと思ってしまったあの気持ちを返してほしい。


と、そう言っていられない。このままでは、コウタがやられてしまう。どうする?今ザルシュたちに襲い掛かって、気を引こうか。だからって、上手くいくものか?分からない。


くそ。考えろ。いや、そんな暇無い。


「:@¥~#^$!!」

イチかバチかで剣を振り上げようとした時、妙な言葉が聞こえた。そして、ザルシュがコウタに追いつく寸前、コウタとザルシュの間に何か投げ入れられる。


投げられたそれは、真っ赤な光を発すると、瞬く間に大きな炎へと変化し、行く手を阻む盾となった。おかげで、炎に驚いたザルシュは足を止め、慄いている。


「大丈夫!?コウタ君!」

その間に、ミコトがコウタに駆け寄った。コウタも腰を抜かしてしまっているが、何とかなったようだ。

…何とか、なっているのか?


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