心酔
なんだ?今のイメージ?
おれは赤い血の球が尾を引いて舞うところを振り向きざまに見ている。まだ、実感が掴めていない。けれど。
今の、おれがやったのか?
ただ、化物を動かさないためには、攻撃し続けなければいけないと思った。しかし、尻尾が飛んできて、同時に避けなきゃ、とも思った。
そこまでは、覚えている。
おれは、身を翻して、化物の方に目を移す。やっぱり、化物の右腕には、切り傷が出来ていた。夢ではない。
化物は、真っ赤な眼でおれを睨んでいる。でも、それどころではないほど、身体が熱い。内側から爆発してしまいそうだ。
何が、起こっている?
いや。
そうだ、攻撃しないと。
まだやつは動ける。かなり頭に来ている様子だ。もう、攻撃されては駄目だ。
おれは、また駆け出した。走ると、頭の中がすっと冴え渡るように、視界が開けた。
また、化物の尻尾が飛んでくる。
でも、思っていたよりか、それは遅く感じた。こんなに、ゆっくりだったろうか?これなら、避けられる。おれは右足に力を込めて、方向転換をする。
おれの右側をすっと尻尾が通り過ぎていく。次は左足に力を込めて、化物へと接近する。
大きく振りかぶる。いける。おれは剣を振り下ろす。また、肉を抉る感触が響く。嫌に、鮮明だ。
ギャアア、という化物の声が遠くで聞こえた。
遠くで?
そんなことは、どうでもいい。もっと、攻撃しないと。
おれは化物が振り向く前に、もう一度剣を振り切った。赤黒い血が周りに飛び散る。生温かいそれは、さっきよりも増して、気持ちの悪い臭いを発している。
「うぁっ…」止まりそうな息を無理やり吐き出して、一旦後退する。そうしたら、少しだけ臭いが薄まった。
化物と目が合った。とてもギラついている。殺気が宿っているところからすると、まだ、諦めてくれていないみたいだ。
来る。
今度は、化物自身が襲い掛かってきた。尻尾が当たらないから、苛立っているのだろうか。
それとも、何か、焦っている?
図体がでかい分、尻尾よりもスピードが遅い。避けるのは容易かった。ただ大きいので、避ける範囲を見間違えないようにしないといけない。
どしん、と振動が伝わってくる。おれは右側に前転しながら避けた。振り返ると、がら空きの脇腹、急所が見えた。
ここだ、と思って、おれは畳み掛ける。握っていた剣を脇に構え、そのまま突進する。ずっ、と剣が化物の脇腹に食い込む。さっきから臭いやら、感覚やらが敏感になっているせいなのか、気色悪い感触が直に伝わってくる。もう、臭いで鼻がつぶれてしまいそうだ。
でも、やる。やらなければならない。おれは突き刺した剣を抜かずに、ぐっと力を込める。そして、切り伏せた。今までにないくらい、血と臭いの応酬が襲ってくる。
尻尾が後ろから伸びてきた。見たわけでは無い。ただ、そうだと感覚的に気付いた瞬間、おれは身を翻して飛び下がっていた。
どういうことだろう。身体はとても熱いのに、やけに、軽くて、自分の思い通りに動いてくれる。理由は全く分からない。が、なんというか、身体と意識のずれがかっちりと嵌ったような。そんな感覚だ。
でも、調子が良いのなら、それはそれで、良いではないか。
化物を見た。まだ、眼は生きている。やる気だ。なら、こちらも、やるまでだ。おれは態勢を低く構えて、右足に力を加える。太腿の筋肉が悲鳴を上げているけど、かまわない。
いけ、と言い聞かせて、化物へと猛進する。
化物が腕を振り上げた。当たる?避ける?いや、当てる。おれは迫る腕に向かって剣を突きつける。剣が化物の腕を突き破る。剣を抜いて、さらに進む。
眼前に、化物の顔が映った。また、目が合った。もう、化物が何を考えているか分からない。まだ、殺気があるのか、恐怖を抱いているのか。まあ、もうそんなことは関係ない。
首だ。胴体と、顔を繋いでいる部分。そこを狙う。おれは短く剣を振りかぶる。がりっという手ごたえを感じた。骨だ。骨が邪魔している。なら、それごと砕いてしまえばいい。
いけ、いけ、いけ、いけいけいけいけ----------。




