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*閑話 年齢差970歳の自称義姉妹


 ローズは美しいものが大好きだが、愛らしいものも大好きだ。

 ぬいぐるみやフリルのスカートにロリポップ。見ていてあきることはない。

 しかし、自分に似合うかどうか考えたときの答えはNOだ。


(あれは限られた年齢が特に似合う装備なの。人によっては成年でも似合うけれど、私の場合は似合わない)


 自分の美学の都合上、今の自分の姿にかわいらしいものは似合わない。

 昔なら似合った時期もあったはずだが、そのころは泥にまみれた生活をしていた。

 だからこそ、ローズはそれが似合うリリーを全力で着飾らせていた。


「やっぱり似合うわ! 想像通り!」

「ほ、本当にこれ、着てもいいの? お姫様みたい!!」

「もちろんよ! これだけ似合うのだから、リリーのためにこの服は生まれてきたのよ!」


 ローズはリリーの姿を見て感動していた。

 すでに叶わなかった自分の夢をリリーが代わりに実現してくれるということ、そして一番大事な『リリー自身が嬉しそうにしている』ということには喜びがつきない。


(昼休みを使って作り続けた甲斐があったわ!)


 派手な装いから想像されることは少ないが、ローズは大変手先が器用で、針仕事は得意である。

 むしろ自分に似合うものは自分にしかわからないと、かなり自分でも服を作るタイプである。


「ありがとう、ローズお姉ちゃん!」

「こちらこそありがとう。リリーのお陰で癒されたわ」


 これで仕事も頑張ることができる。

 クロウのためにいくらでも頑張る自信はあるものの、やはり気分転換もなければ進みが悪くなることもある。


(むしろクロウ様に加えてリリーのためでもあるなら、仕事が二倍捗るわ!)


 そんなことをローズが考えていると、リリーがうなる。


「ローズお姉ちゃん、リリーもローズお姉ちゃんにお礼したいの」

「まぁ、本当に?」


 ローズとしてはお礼など必要ないのだが、せっかくのリリーの申し出だ。断ってしまうと逆にリリーが可哀想なことになりかねない。


「でも、こんなに綺麗なお洋服みたいなのじゃないの……」

「でも、リリーが一生懸命考えてくれたものでしょう?」

「うん」


 自信なさげではあるが、間を置かず返された返事は本物だ。

 だからローズは膝を折り、リリーと視線を合わせてからゆったり微笑んだ。


「贈り物はね、そのもの自体の価値だけじゃないの。どれくらい心を込めるかっていうことで、贈り物の価値は凄く変わるのよ」

「ほんと?」

「ええ。高級な余り物をくれる人と、自分のためだけに一生懸命考えてプレゼントを用意してくれる人だと、リリーはどっちの人のほうがリリーのことを考えてくれていると思う?」


 人に寄れば、それでも高価なものの方が嬉しいという者もいるだろう。

 それはその者の価値観次第だ。それを否定する気はローズにはない。

 しかしローズはリリーの答えがどちらなのかは想像に難くない。


「リリーは、リリーのためのもののほうが嬉しい」


 そしてリリーが納得というよりも決意を固めることができるならば、それに越したことはない。

 それにより、ローズはリリーからの贈り物を逃さずに済むのだから。


(さぁ、リリーは何を用意してくれているのかしら)


 可愛い子が用意してくれるものなら何でも可愛い。たとえカエルの干物のようなものが用意されたとしても、それを可愛い化粧品や魔法道具に変えてしまえば何も問題ない。

 そして不気味な笑みがこぼれないよう必死に堪えていたローズに差し出されたのは、ひとつの小さな箱だった。


「リリーね、クロウ様からお薬のお勉強のお仕事いただいたの。それで……お薬のお茶、作ったの」

「まぁ! リリーの手作りなのね! どんなお茶なの?」

「えっと、手や足がぽかぽかするの」


 今から暖かくなっていく……むしろ暑くなっていく季節とはいえ、昼夜の寒暖差がある。

 むしろリリーの薬草茶が活躍するのであれば気温を下げても構わないとローズは思うが、それをすると農作物の関係でクロウが困ることになるので我慢する。


「ありがとう、リリー」

「へへ」

「さっそくだけど、一緒に飲みましょう?」


 しかしこういものを作るのであれば、それに似合う衣装でも用意するべきかと考える。リリーが似合う可愛らしい仕事着もまた、ローズの潤いには必要である。


(またすばらしいものを作ってみせましょう)


 しかし、そこでふとローズは思いついた。


「ねぇ、リリー。お茶菓子にケーキがあるのだけれど、少し大きいの。クロウ様も召し上がらないかお尋ねしようかと思うのだけど、どうかしら?」

「クロウお兄ちゃんも一緒だと、リリーも嬉しい!」

「ならお尋ねしてみるわね」


 ローズはリリーが『リリーも』といったことに気分をなお向上させていた。ローズも嬉しいという前提でリリーは考えている。


(同志ね)


 リリーの関心自体が自分よりもクロウに向いていることをローズも理解している。しかしそれは悔しくない。むしろ相手がクロウであるというなら当然のことで、『リリーはよくわかっているわ』と、リリーに対する肯定が増すばかりだ。


(人間の成長は早い。もう十年もすればリリーも大人になるし、それからしばらく経てば大人の色香を纏うかもしれない)


 そうなれば、クロウの寵愛をともに請う仲になる可能性もある。

 だが、それならそれでいい。

 なにせそれくらい成長してくれれば、今度はコーディネートを合わせることもできる。


(クロウ様や私を兄や姉と慕ってくれる間は問題ないし、それに姉妹でクロウ様のお眼鏡に叶うなら、それもそれで楽しいわ)


 もちろん相手がリリーであっても『一番』を譲る気はさらさらないのだが。

 ただし、それに下劣な手段を使うつもりは一切ない。それは相手が誰であろうと同じで、常に世界中で一番いい男であるクロウに見合う者であろうとするなら当然のことだとローズは思っている。

 そんな手段でしか気を引けないのであれば所詮は二流。クロウの視界に留まることすら難しいだろう。


「ローズお姉ちゃん? どうしたの?」

「なんでもないわ。それより、ポットはあるかしら? ないのなら、私のを貸してあげるわ」


 ローズの頭の中にクロウの予定はすべて詰め込まれている。副官であることを利用することに何らためらいはない。クロウにだって休息時間は必要であるし、その際にリリーがいても何の問題もない。


(もっとも、クロウ様はリリーの可愛さより能力の面を買っておられるのかもしれないけれど……)


 それでも、悪い気はしていないはずだ。

 それくらいの見分けはローズにもつく。


「さて、楽しいお茶の時間に致しましょう」


 魔界から再び人間界に来ることに思うところがなかったわけではない。

 けれどクロウの様子やこれからの期待を考えれば、そんなことはもう気にしない。

 なにせ、ローズにとって一番大事なのはこれからのことなのだから。



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