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*第七話の裏側 だって私の主ですから。


 ローズが魔女になったのは、永遠の美を追求するためだ。


 あるともないとも定かではなかった魔法を会得し修練すると同時に、様々な化粧品や美容法を試した。


 そして二十を過ぎたころ時を操る術を習得し、自らの老化を極端に遅くなる術を施した。

 その後魔界に渡り、クロウの元で副官となり、さらなる研究を重ねて現在に至る。

 ローズは若いころの外見を保って年を重ねているが、不老不死ではない。

 僅かではあるが、確実に年は重ねている。そのため、美を保つための努力は怠ってはならない。


(……なのに、どうして! クロウ様はこれっぽっちも振り向く素振りすらしてくださいらないのかしら……!!)


 初めて手を差し伸べられた時から惹かれていた。

 人間の中では向かうところ敵なしのローズでも魔界に渡ればさほど目立つ者ではなかった。今と比べれば十分の一の力もなかったことだろう。


 しかしクロウは、そのころからローズの意見を無下には扱わなかった。


 規則正しい生活を望めば、安心できる寝床を与えられる。力をつけ、その力を警戒され狙われる恐れがでた折には護衛まで与えられた。


 そんなクロウのことをローズはいつか必ず振り向かせると決意した。


 ローズは自分の容姿が優れていることを知っている。

 だからこそ他の分野を極めれば、別の女もしくは男が急に出てきても、クロウを取られることはないと信じていた。

 ローズの考えが的中したかはさておき、九百年以上もクロウは独り身だった。

 それはクロウがモテないというよりは、想いを寄せられていても気付かないという鈍感な魔王だったからである。


 そして――その鈍感魔王はローズの気持ちにも一切気付くことなく、魔界を去った。


 クロウが本当に魔界に戻らないと気付いた時、ローズもそれを追った。


「……まさか私が再び人間界に戻ることになるとはね」


 ローズはルーシーに案内された居室のベッドに寝転びながら、そう言った。

 人間界が嫌いだということはない。

 ただ人間界にいたころはずいぶん昔なので、魔法を覚える以前は非常に貧しい暮らしをしていたことくらいしか覚えていない。クロウと出会ったころのことは鮮明に覚えているのに、大きな違いである。


(クロウ様にはこのような田舎、似合わないと思うけれど……もっと発展させてお暮しになるご予定なのよね)


 だとすれば、自分が命じられた路面の改修の意味がわかる。

 本当ならば自分一人でやりたいと思う案件だが、ローズも人間を手伝う立場をとるべきだと理解している。

 人々が紡いできた技術を途絶えさせたり、また発展を阻害することがあってはならない。

 そうなれば街の発展がなくなるのだ。


(クロウ様が好まれた土地とはいえ、まだまだ田舎。このようなところで発展がとまってはクロウ様にふさわしい場所とはなり得ない)


 少し面倒だと思うものの、再び副官としての仕事を命じられたのだ。

 期待に応えないわけにはいかない。むしろその仕事をほかの者にくれてやるつもりはない。


「だって、私はクロウ様の一番にならなくてはいけないのだから」


 そう決意し、上半身を起こしたとき。

 部屋を遠慮なくノックする音が聞こえた。


「ローズお姉ちゃん、いますか?」

「リリー、来たのね。入ってらっしゃい」

「はい!」


 人間に度々聖女が現れるという話は昔からあった。

 だが、それはせいぜい人間が勝手に民衆を言いくるめるためにそのように言っているだけだと思っていた。

 だからこそ、ローズは思う。それは間違いだったと。

 実際に聖女は存在した。


「ローズお姉ちゃん?」

「ああ、ごめんなさい。リリーが可愛いから見惚れちゃっていたの」


 このリリーは、可愛い。

 聖女と呼ばれるに足る可愛さと素直さを兼ね備えている。

 そんな彼女が自分を姉と呼ぶのであれば、妹として扱わなければいけないだろう。

 ローズにとって家族というものがあった記憶がない。

 だからこそ、この呼び方への感動は大きかった。

 しかもクロウが『お兄ちゃん』であるなら、お揃いの呼ばれ方で嬉しいものだ。


(クロウ『お兄ちゃん』のお嫁さんだから『お姉ちゃん』っていう意味ならなおさら嬉しいのだけど、さすがにこの子はそこまで考えていないわよね)


 けれど、いつかそちらの意味でも『お姉ちゃん』と呼ばせてみせる。

 そんなことをローズが考えていると、リリーははにかんだ。


「へへ、綺麗なお姉ちゃんに言ってもらえると嬉しいの。リリーも、お姉ちゃんみたいに綺麗になれるかな?」

「美しくなりたいなら、私が教えてあげるわ。所作でも、美容法でも。なんでもお姉さんにお任せなさい」

「ありがと、お姉ちゃん」


 むしろこちらがありがとうと言いたくなるほど、ローズのテンションはあがっていた。


「それより、どんな用事があって来たのかしら?」

「あのね、庭、案内してあげる! すごくお花綺麗なの!」


 ここからでも花は見れるーーとは、ローズは言わなかった。

 絶対に近くで、しかもこんな可愛い子と、クロウの住む城がどんな所か見ることは楽しみだ。


「さ、いきましょう」


 晴れ渡り青々とした空は、今のローズの気持ちそのものだった。


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