6.縦ロールって巻がすごいのね
「聖女様、聞いてらっしゃるのですか?!」
リリー嬢こと、リリーベル・ヴィルトンは、見事な金髪の縦ロールを揺らしながら頬を膨らませている。
「その髪は巻いてるの? それとも生まれつき?」
顔が小さいせいもあるんだろうけど髪の毛に埋まりそうな様子に思わず聞けば。
「ミーヤが整えているんですの!」
誰よ?となるも乳母的な人だろうかと勝手に判断するも、その人は言いなりなのかな。
「ねぇ、小顔で中のパーツも整っているんだから、無理に巻かなくても……強く見せなくても充分可愛いわよ」
テーブル越しに少し身を乗り出し毛先に触れてみると、しっかりとした毛質かつ明るい金髪の色が美しい。
「つ!無礼な!」
「失礼。でも、普通に流した感じも似合いそう。色が綺麗だから巻かないほうが引き立つわ」
「うるさいわね!」
パンッ
へぇ、扇子って武器としてもいけるのね。
「リリーベル様。無作法はそちらでは? それ以上、私のカナ様に危害を加えるならば、正式に抗議しますが」
柱の一部の様に気配を消していたギュナイルが、ソファーに座る私の背後に立ち、低い声で威嚇し始めた。
「というか、私のって何よ」
さらっと流れた台詞だけど、なんか引っかかるわ。
「そのままの意味ですよ」
チュッ
ギュナイルは、私の左手を取ると音を鳴らしながらそこにキスをした。
「治癒は助かるけど、別にキスなんてしなくて治せるんじゃないの?」
赤みと擦れたような線が嘘のように消えているのは素晴らしいが、怪我するたびに患部にチュッチュなんて不衛生過ぎる。
「仲が良いこと。でも安心しましたわ。貴方は、その方がいるのだから必要ないですわよね?」
なんか、気に障るわね。まだ高校生くらいの子みたいだし優しく接してあげようと思っていたんだけど。残念だわ。
「リリーベルさん。人は物ではない。まして生涯を共に暮らそうと考えている相手に対してどうなの?」
まぁ、私が言うのもなんだけど。
「政略結婚なのは分かるけど、そんな気持では誰も一緒に暮らしたいなんて思わないかも」
じっと見つめれば、小さな唇を噛み締めている。悔しいのかな。まだ幼い、でも、だからこそ真面目に自分と向きあった方がいい。
「私は、カナを物だなんて思っていませんから!」
「なんか怪しい術をかけようとしたくせに」
「それは誤解です!」
「どうだかなぁ〜」
「カナっ」
私だって記憶力はまだいけるのよ。忘れてませんからね。
「あのさ、貴方がランクルの事が好きなら邪魔するつもりは全くないの」
「では」
「でも、今の貴方は、ただ必死に義務を成そうとしているだけにしか見えない」
それってさ。
「一度きりの人生なのに幸せ?」
親の言いなり、家が大事と言うけれど。人が存在して家があるんでしょ。
「ギュナイル?」
私の背後にいたギュナイは、急に私を庇うように移動した。その直後。
またバタバタと外が騒がしい。さっきの原因はこの子だし。ならば。
バンッ!
お城で勤務中のはずのランクルが息を切らしながら部屋に入ってきた。余程急いで来たようね。
「──カナ、どういうつもりだ?」
「えっ、私?」
ランクルが睨みつけているのは、何故か私だった。