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4.ランクル君のお兄さんとの夕食で

「明日、また来ます」

「はいはい」


ギュナイルは、なんだか見放された子犬のような表情をし去っていった。その後ろ姿もこころなしか背中が丸いように見えなくもない。


「カナ、俺も一度報告に騎士団に戻る」

「了解」


なんとなく彼の乗ったバスっぽい乗り物が見えなくなるまで眺めていれば背後からランクル君に声をかけられたので返事をした。


「余計なお世話かもしれないけど、適度に休憩したほうがいいわよ」


ご飯と最低限の睡眠はとりなさいよと心の中で呟いていたら、じっと見下された。


はぁ、君もか。


「何処も行く予定はないから大丈夫よ」

「……」


何か言いたそうなのに言わない。ただ、伸びてきた手は、私の頬にまるで壊れ物かのように触れた後、ゆっくりと離れていった。


「いってらっしゃい」


慣れたはずの少しかさついた大きな手は、温かくて何故かホッとし、自然と声をかければ、背を向きかけていたのに顔が振り向いた。


「ああ、いってくる」


ランクルは、ヒラリと手を振り去っていく。


「──なんか反則でしょ」


あまり見る事のない、照れたような嬉しそうな顔をされ、思わず自分の顔が赤くなった。




* * *


「美味しい」

「よかった」

「でも、何故?」


二人が去った夜、ランクル君は、帰りが明日になるかもしれないと伝達がきたので当主様、ラインさんとの夕食の場で提供されたメインの食事がグラタンだった。


「弟が貴方の世界で知った料理の中で此方でも近いものが作れる品があると調理方法を記したものを家の料理長に渡したようでね。口に合ってよかった」


なんかたまにメモをしているとは思っていたけど、マメな子だわ。まぁ、そのお陰で滞在中は馴染みの食事にありつける予感。正直、とっても嬉しい!


お酒と食事は生きる糧である。


「カナ様、貴方には意識がない時だけではなく、今回も世話になり感謝しきれません」


食器が下げられ珈琲が置かれた頃、いつの間にか広い部屋には私とラインさん以外は執事さんが一人隅にいるだけになっていた。


「しかし?」


ストレートの珈琲を一口飲み、小さな楕円形のチョコレートを口に入れながら先を促せば、緑の瞳は僅かに細まり形の良い口は弧を描いたが決して笑っているわけではないのは丸わかり。


「しかし、貴方がこの先について、どのような考えを持っているのか知りたいのですが」


随分、弟への愛が強いわねぇ。


「それ、お兄さんに言わないといけない事なのかしら?」


あら、イラッとした顔も素敵。やっぱり一度スケッチしたいわと眺めていたのだが。


「実は、弟には以前、婚約者がいた」

「へぇ」


初耳だし、契約する時に確認した際は彼女や奥さんはいないと聞いたんだけど。


「かつての婚約者がヨリを戻したいと言ってきたから婚約を解消して欲しいととでも?」


苦笑している顔を見るかぎりは正解らしい。


「相手は我家と同格の家柄なのです」


揉めたくないって事ね。


「いいわよ。ただし、帰るまで居候させて」


お城では息が詰まる。


「なんで驚いているの?」


婚約解消の話を言ってきたのは君でしょ?


「弟は、貴方にとってそんなにも軽い存在だったのか」


さっき見た、気を許してくれているランクルの顔が一瞬、過ぎった。


「想像に任せるわ。ご馳走さまでした。あ、婚約の証明書は彼が持っているから後は二人でどうぞ」



* * *



所詮、オママゴトの様な付き合いだったしな。


「……変なの」


借りた部屋に戻る廊下をぼんやり歩きながら、よくわからない寂しさをほんの少し感じた自分がいて戸惑った。



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