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3.やらかしたけど、終わり良し

「私の顔に何か付いてますか?」

「え? 憑いてはないけど」


ラインさん、ただ貴方の珈琲を飲む姿に見惚れていただけですとは言えない。だが両隣の二人は私がうつつを抜かしているのはお見通しのようで、先程からずっと圧を感じていた。


うっとおしい。


「悪いけど、当主様と二人っきりにしてくれない?」

「無理です」

「無理だ」

「えー」


両隣から即ダメ出しをくらい、部屋の温度まで下がった気がするけど、ハッキリ言わないと伝わらないんだもの。


「弟の婚約者である聖女様と二人だけでは貴方に迷惑がかかるかと」


お兄さんまで難色である。あー、ハイハイ。けしからん事をすると思われる可能性ありなわけね。


「まぁ、噂になろうが構わないですが、当主様は困るかな」


アホらしい。ほんとクダラナイ。


だけど異世界からの異文化。それに加えて本日からお世話になる予定の屋敷の当主様である。


「あのですね。この二人がいると変に空気が重いから集中できないんです。ラインさん、身体を以前の状態にしたいのでは? やってみないと分かりませんが、宿代の代わりとして試してみませんか?」


あ、そうだ。別に室内じゃなくてもだだっ広い庭があるじゃないの。


「部屋が厳しいなら外のお庭はいかが?」



* * *



「良い感じだわ」


彼ら二人は屋敷に待機してもらい、執事さんとメイドさんは、かなり離れた場所に立っているはず。


あの粘着質と最近やたら世話焼きの騎士とは違い私情が無い彼らは空気に等しい。


藤の花のように棚からぶら下がる白い小花が満開なのもあり待機の人達が視界から遮断された。


「さて、始めますか」

「剣が何故必要か聞いても?」


腰にある剣の柄を掴みながらも戸惑いがあるのか抜こうとしない彼に伝わるかわからないけど、説明する。


「剣の扱いは慣れているんですよね?」

「弟ほどではないが」


謙遜だな。


手の厚みは半端ないし、あれだけやせ細った身体がいまやバランスよく引き締まっている。どうやら兄は細マッチョではなくガッチリタイプのようだ。


──いい。

脱いだ姿をスケッチさせてくれないだろうか。


「あの、聖女様」

「あ、ちょっと妄想を。それと、これ重要なんですが、かなと呼んで下さい」


その呼び方は禁句だから。


「カナ様」


イケメン、顔よし声よし。いや、堪能する前にやる事は済ませねば。


「理由ね。適度な緊張とゆるみが欲しいから。単に慣れているポーズのが良いかなというだけです」


まだ納得できないようだけど、さっさと試しましょう。


「そう。構えるだけでいいわ」


少し離れて彼の顔や筋肉だけではなく、全体を視ると、なんだか霧のような塊が何か所か視えた。


「私、この世界に来るとパワーアップしているのよね」


仮定が決定的になるというか、こんな非日常なモノが視えてしまうのは、濃い血を継いでるとはいえ異常だ。


「カナ様?」

「独り言ですよ。そうね少し力を抜きましょうか。ココだけは意識して。足は地についているかのように鼻から吸って──」


彼のおへそ辺りに手を添えれば動揺したのは一瞬で、直ぐに意識を切り替えてきた。


顔よし、声よし、察知能力パーフェクト。


「口から吐く息は細く長く」


数回繰り返せば慣れてきたのか呼吸が自然になった。次にラインさんの右手首を両手で掴む。


「なっ」


驚くのは分かるけど、せっかく良い状態を保っているのだから頼むわよ。


「呼吸を維持して。私が触れている箇所から水が流れていくイメージできる?」

「水?」

「そう。右腕から肩に頭を辿り左肩に。そこから足のつま先まで水が流れ染み込むように」


実際、彼の手首を掴んだ私の手は濡れている。これは、ただ水を浸けた手ではない。水の中にばーちゃん特製の塩を溶かし込んだモノ。


何故、所持していたか。それは携帯カバーに入れっぱなしだったお守り代わりの品である。転移した時に後ポケットに携帯を無意識に入れていたのがラッキーだった。


「あと少し。焦らずゆっくり呼吸して水が体を巡るのを想像するの」


流石、若そうなのに当主様なだけあるわ。飲み込みが早い。


ネックは心臓の近くか。


テーブルに置いてある即席オリジナル水が入ったボールを近くに置こうとした時。


「あっ」


石畳の段差に躓いた。勢いが思っていたよりも強く両手から器が離れていくのをまるでスローモーションのように感じた。


「カナ様!」


ああ、石畳に顔面いったなと諦めの境地に入った時、浮遊感に包まれた。一瞬の時間を得たおかげで両手で体を支えられた。


カランカラン


音により顔を上げれば、彼は右腕を前に突き出した状態で固まっていた。おそらく私を助けようとしたのだろう。


それだけではなく。


「……これぞ水の滴るいい男」


あれ?この言い方で合ってるわよね。


「あ、えっと助けてくれたのよね? ありがとうと水を盛大にぶっかけてごめん」


手は間に合わなかったけど、あの不自然な浮遊感は、魔法なのだろう。


「大丈夫?」


ランクル君と同じ真っ赤な髪から絶え間なく水滴が落ちていく。見事に頭から被ったようだ。ぺったりとした赤髪と弟とは違う緑の目は、見開いていた状態だったのに。


「ハハッ」


なんか爆笑している。


「楽しそうでなによりですが、お高そうな剣を落としてますけど」


いや、私のミスだよ。だけどさ、お腹を抱えて笑わなくてもいいじゃない!


「で、どうなんですか?身体は?」


私の言葉にやっと笑うのを中止した当主様は、髪をかきあげながら、清々しい笑みを浮かべた。


「完全に魔力をコントロール出来ています」


水をかけられぺったりと額に張り付いた前髪が邪魔なだけだったんだろうけど。


「聖女、感謝する」


色気が漏れまくっている。


「お礼なら、お酒増々とスケッチさせて。あと名前!次はないですから」


キョトンとしたラインさんとランクル君は似ているな。


「御意。カナ様」


どこか幼さが残る誰もが見惚れる笑みを返したラインは、まだ奏という異世界人の生態を知らなかった。


地下の酒樽が次々と消えていき、描かせてという絵は、半裸の姿だという事を。







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