26.ギュナイルの絶望
「カナが来て既に七日は経過している。これ以上待てというのですか?」
何年も会えなかった人がすぐ近くにいる。もう充分すぎるほど耐えた。
「陛下ではなく聖女様がまだお会いたくないと仰っているそうです」
「そんな」
「予定がありますので失礼致します」
陛下の補佐官は顔色一つ変えることなく去っていった。
柔らかな日差しが差し込む回廊は私の気持ちとは真逆で光が満ち溢れている。
「何故会ってくれないのですか?」
私があまりにも不出来だからか。
「己から突き放し、再び縋り付いて」
私は、何をやっているのでしょう。
「よぉ、こんな天気のいい日に腐ったツラしてどうした?あ、嬢ちゃん来てんだろ? 良かったじゃないか!」
感傷に浸る間もなく大声で話しかけてきたのは騎士団長のラング。歩き方で分かってましたが。
「ラング団長、相変わらずお元気そうでなによりです」
今、貴殿の相手が出来るほど余力はないのです。
「何言ってるんだ? 一昨日、長いだけの身のない会議で会ったじゃないか。若いんだからシャントしろよ!」
「痛いですよ!」
「おっ、そうか?スマン。魔術士さん方はもっと食ったほうがいいぞ!痩せ過ぎだ!アハハ」
貴方にかかれば、城にいる大多数の人間は痩せすぎになるでしょうよ。肉厚の手のひらで叩かれた腕を擦りながら睨みつけてみましたが……。
「どうした?なんか付いてるか? さっきボロボロ崩れる菓子をくってたからな」
「いえ、何も」
世の中には、自分にとって気の合う人もいれば合わない、いわば相性があると思っていますが、人柄もずば抜けている剣術も素晴らしい彼なのに。
私とは合いませんね。
「では、私はこれで」
まだなにか話している彼を残し研究室へと足を向けた。
***
更に14日が経過した頃、ランクルと私は、許可されなければ入れない庭で彼女と再開した。
「久しぶり」
声をかける前に身体が動いていた。
こんなにも小さかっただろうか。
「ふふっ、イケメンは泣き顔も綺麗でお得ねぇ」
痛いと言われ腕の力を緩めれば顔を出したその姿は、やはり以前より痩せた。ただ、その話し方や笑い方は変わらない。やっと会えたのだと目の前にいるのだと湧き上がるなんともいえない暖かいモノを感じる。
それなのに。
「最初に言っとく。病気、完全には治らなかった」
一瞬、カナの言葉が理解できなかった。
「短くて五年、長くて十年生きられるらしいわ」
まだ頭が動かないというのに、彼女は話を止めてくれない。
「何故そんなに冷静なんですかっ?!ランクル!貴方もです!」
偽りを述べていないのは明らかだ。それでも嘘だと冗談だと言って下さい。どうしてそんな穏やかな表情をするのですか?
嫌だ。
カナが居なくなるなんて。
考えたくもない!
「ランクル、ギュナイル。君達となら一緒に暮らせる気がする。あの三人でご飯食べるのをまたしたいな」
私達の前にほっそりとした右手が伸ばされた。
「私と結婚してください」
ずっと聞きたかった言葉なのに。
私の目尻からまた一滴流れたのを感じた。




