24.満ち足りたなにか
沈黙が長すぎて差し出した右手がプルプルしてきた。
「あ、そうよね」
期間限定で結婚してくれだなんて呆れられて当然だ。
真面目に考えた結果だったんだけど、思い上がっていたのは私か。反応がない二人を前にして恥ずかしくなってきた。
「やっぱり冗談っ、痛っ」
「なし、はないですよ」
ギュナイルが義手の手で握ってきた。かなり痛いんですけどと抗議をしよううと顔を上げたら、静かにハラハラと泣いている。その落ちていく雫までも陽の光で宝石のようである。
太陽は君の為にあるのかというくらい、無駄に美しい。
つい魅入ってしまい抗議が遅れれば、深い緑の目と合った。茶色から変わったという事は、魔力が多少戻ったのかなと今更ながら気になった。
「怒ってキレて泣いているんじゃないの?」
「何を言っているんですか!」
「じゃあ何?」
そう尋ねてみると腕で乱暴に涙を拭いながら、キッと睨まれた。
「沢山ありすぎます!」
私のない脳みそでは理解できない。
「やっと手に入れれた喜びも束の間、一緒にいられるはずが時は限られていると言われた絶望感だと俺は感じるが」
ランクル、いきなり話しだしたと思えばギュナイルと分かりあえているようね。解説ありがとう。
「カナ」
「ランクルも言いたい事があるならこの際に全部ぶちまけてよ」
人払いされた邪魔が入らないこの瞬間は貴重よね。
「ない」
返しがはやっ。
「なにかしら言わなければならないのなら感謝か。共に過ごす事を選んだ貴方に。病についてはこの後早急に他国の医師にも問い合わせる。完治を目指し諦めてほしくない。そこは譲れない」
「真面目だなぁ」
話し方は随分とラフになったけど、他は何年経過しても変化がなくて逆に変わりないカタブツ騎士でホッとする。
「二人共、傲慢だ自分勝手だって怒っていいのに」
一人で生きて、ヨボヨボのお婆ちゃんになる前に入居できる施設を探すんだろうなと、何処かでずっと思ってた。病気が発覚してからは尚更先を決めるために暇さえあれば検索をしていた。
「……君達に会えてよかった」
断れなくて連勤続きの寝不足の日、いきなり変な世界に飛ばされ苛立ちしかなった。その後は、ばーちゃんに手のひらで転がされているみたいで、あのばーちゃんなら仕方がないとは思いつつもムカついた。
しれっとしていたけど、内心は腹が立っていたのだ。なのに最終的には。
「一人じゃないって、安心するっフガッ?!」
ランクルに鼻を指で摘まれ変な声がでちゃったわよ!
「ひょっと!はなひなさいよ!」
「諦めるなと言ったはずだが」
そんな力を入れられたら鼻が取れるわよ!
「確かに。婚姻するのですから長生きしてもらわないと。ちなみに今の体調は大丈夫なのですよね?ならば式は明後日にしましょう」
「明後日?冗談でしょ」
この堅苦しいさがある国での挙式は、準備には時間をかけているわよね?団長さんの式で流れをざっととはいえ教えてもらったわよ。
「冗談は好まない。また変に悩む前に、逃げられる前に婚姻を結ぶ」
「ランクル、貴方と初めて意見が一致したように感じます」
なにやら二人で深くうなずき合っている。
「おいおい、私を抜かさないでよ」
ホント、仲良くなったのね。
「「奏」」
「はによ」
クッキーが湿気にやられたら勿体ないと口に頬張っていたら見事な被りで二人に呼ばれたので上手く返事ができなかった。
「後悔はさせません。ですよね?ランクル」
「ああ」
いやに穏やかな眼差しが降り注いだ。
「「愛している」」
此方が恥ずかしくなるくらいストレートな告白を二人からされた。
それは、不確かな目に見えないもの。言葉だけならなんとでも言える。
「……ふぐっ、グズっ」
サラッとどうもって返そうとしたのに、私の目尻からジワッとしたモノが流れてきた。
「ウグッ、ゲホッ」
そしてリスのように両頬がクッキーで膨らんでいた私は、盛大にむせた。
「カナ!大丈夫ですか?!」
「水だ」
私の背中を擦るギュナイルに冷静にスッと水を手渡してくるランクル。
コントのような状況になっているこの状況だけど、こんな気持ちになったのは、初めてだった。
「──ありがとう」
身体が満ち足りた気持ちで一杯で、どう説明してよいか分からなくて、お礼の言葉しかでてこなかった。
「ふふっ、こんな可愛いカナは貴重ですねぇ」
「あぁ。最初で最後かもな」
馬鹿にした、からかう口調とは裏腹に二人の視線がとても優しくて。止まりかけた涙が再び流れた。
「……諦めないよ。精一杯、二人の側で生きる」
頑張るよ。
「泣きながら笑えるなんて特技ですね」
「菓子の欠片が口の周りにこんなにもつくものなのか?」
──コイツら。
「色々台無しよー!!」