20.疲れた頭では無理よ
「魅力的だけど、即答はできないかな」
只でさえ疲れ切っているので自分にとって正しい判断が今できるかといえばノーである。
「正直、我々はカナの状況も考えると此方に来ていただくという案しか考えていないのですが」
腑に落ちない顔をしている二人に確かにと共感出来る部分もある。
「死さえも恐れないのか?」
ランクル、私を化け物扱いするのは止めていただきたい。
「普通に怖いわよ。今まで積み上げてきた物は、死というものによって全て無意味だったのかと思うくらいに」
「ならば何故?」
何でかしらね。
「逃げるみたいで嫌なのかな。あとは、もし此方に来たとして、利がなければ陛下の許可は出ないはずって、どうしたの?」
ギュナイルにいきなり手を取られ、しかも冷たく硬い感触に驚いて手元に視線をやれば、彼の手は黒い金属のような物で作られた義手だった。
「我々に対しての気持ちは、もうないのでしょうか?」
そうよね。一番大事な事だわね。
「随分時間が経ったけど、忘れた事はなかった」
二人との関係は激情という程の感情は生まれなかった。それは、いつも緩やかで時に下らない話で騒いだりした学生の頃に近いだろうか。
「仕事から帰えると君達がいる生活は、結構好きだった」
「ならば」
「でも、それとこれとは別だわ。なによりも急すぎる」
これ、永遠に終わらない会話になりそう。
「なら、三日後に結論だせば?」
「ぎゃ、ちょっと! 首だけいきなり空中に出さないでよ!」
いくらレイちゃんが整っている顔でも怖過ぎる。
「そんなっ、こんな話をしている間にもカナの身体は刻々と悪化していくのに」
ギュナイル、君は私の主治医か。
「七年待った。数日くらい構わない」
「ランクル!そんな呑気にしている場合ではないみですよ!」
「カナだって、すぐにどうにかなるわけではないと言っているだろう? 冷静になれ」
「カナの事でなれるわけないですよ!」
ギュナイルとランクルは、随分仲が良くなったんだなとちょっと驚いた。
「仲良くなってよかったわ」
「「いいわけない(です)」」
見事に揃ってるけど。
「取り込み中みたいだけど、とりあえず戻すね」
「うわ、レイちゃん!」
再びの浮遊感と、掃除機に吸い取られるゴミってこんな感じなのかしらというくらい強く引っ張られるのを感じながら、奏は、自室へと帰宅した。