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3.魔王、キラキライケメンに囲まれる



 ――端的に言うなら、イケメンその四とでもしようか。前下がりに切り揃えられたヘーゼルナッツ色の髪に、モノクルの奥に覗くまっすぐな青紫の瞳。騎士であるアランと同じく体格はいいが、聖職者なのか、詰襟の白装束を着ている。


 王子に騎士に侍従に、今度は何だ!? そのようにアリギュラが構える中、第四のイケメンは胸に手を当てて恭しく告げた。


「私は聖教会の者です。本来なら我ら教会が聖女様を保護し、ただちにこの世界についてご説明差し上げるべきところ、お迎えが遅くなってしまい申し訳ありません。行きましょう、アリギュラ様。私が、色々とご説明させていただきます」


「っ、おぬし、わらわの名を知っておるのか!?」


 名前を呼ばれ、アリギュラはぎょっとして目を剥く。するとイケメンその四ら、胸に手を当てたままにこりと微笑んだ。


「もちろん存じておりますよ。聖女様を召喚したのは、我ら聖教会ですから」


胡散臭く微笑むイケメンに、アリギュラは慄きながらも考えた。聖教会が召喚した。この男はたしかにこう言った。つまり、アリギュラが今のような事態に陥っているのは、聖教会とやらのせいらしい。


(どうする? この男についていってみるか……?)


 悩んでから、アリギュラは腹を決めた。何はともあれ、今は情報が欲しい。幸いにして、勇者との死闘で枯れたはずの魔力は、いまや満タンに戻っている。いざとなればイケメンひとりどころか、この施設ごと一瞬で破壊できる。と考えるならば、ここはひとつ、この男の誘いに乗るべきだろう。


「聖教会の者とやら! あいわかった。わらわはおぬしに従おう」


えええー、と。不満げな声をあげたのは、先に声を掛けてきたイケメン三銃士たちだ。代表して抗議をしたのは、王子であるジークだ。


「聖女は我が国、いや、この世界の最重要人物だよ。王家が保護しても、なんら問題はないはずだけど」


「左様ではありますが……」


 困ったように眉を八の字にして、四人目のイケメンが問うようにアリギュラを見る。その示すところを瞬時に察し、アリギュラは食い気味に頷いた。


「わ、わらわは四人目のイケ、ごほん、聖教会の者に保護を求むぞ!」


 四人目のイケメンが一番話が早そうだから、と、アリギュラは心の中で付け足す。ほかの三人は、いちいちキラキラ笑顔やら口説き文句やら挟んで、一向に話が進まない、気がする。


 ぶんぶんと頷くアリギュラに満足げに微笑んでから、四人目のイケメンは爽やかに後の三人に告げた。


「聖女様のご意向ですので、ご容赦ください。それではアリギュラ様、参りましょうか」


 不満そうなイケメン三銃士の視線をひしひしと感じながら、アリギュラは王子たちの間をすり抜ける。そして、第四のイケメン――名前はまだ知らない――の後を追った。


 大理石の床に、白く精錬な柱。趣としては、宗教寺院といったところか。逃げている時は気を配れなかったが、なかなか大きく、立派な施設であるらしい。


『聖女』の話は施設中に広まっているのだろう。男の後をちまちま追いかけるアリギュラを、たくさんの視線が追いかける。好奇の瞳もあれば、尊敬の眼差しもある。中には感極まって、泣き出す輩までいるときた。


(いったい、聖女とはなんじゃ!?)


 半ばキレ気味に、アリギュラは前を行く背中を睨む。そして、ふと気になった。


 この背中――纏う空気というべきか。どことなく、誰かに似ている気がする。


 だが、アリギュラに人間の知り合いはいない。いや、殺し合いをした仲である勇者一行を知り合いと呼ぶならそうだが、少なくともカイバーンとこの男は似ていない。


 そもそも、この男から感じる『何か』は、アリギュラにとって身近なものな気がする。それこそ、常日頃そばにいた『何か』のような……。


 道をまっすぐ行くと、豪奢な扉の前にたどり着く。扉の両脇には、白い礼服を着た巫女ふたりが控える。彼女らが恭しく頭を垂れるのに軽く頷いて、男は扉を押し開いて中に入るようアリギュラに促した。


 ――『聖女』に与えられる部屋だろうか。ベッドや机など、広い室内には生活に必要なものが一通り揃っている。


 それらを眺めていると、ぱたんと、背後で扉が閉まった。



 途端、それまで恭しくアリギュラを案内していたイケメンその四が、ものすごい勢いで跪いてアリギュラの手を取った。



「あああアリギュラ様!! 我が君!! よくぞご無事で!!!!」


「は!?!?」


 ぎょっとして、アリギュラはとっさにイケメンを魔力で吹っ飛ばしそうになった。けれども踏みとどまったのは、イケメンが口早に次のようなことを続けたからだ。


「勇者カイバーンめの光に呑まれた時はあわやと思いましたが……! 異なるお姿とはいえ、貴女様が無事に命を繋げられ、私は大変嬉しゅうございます!」


「おぬし何故それを!? ……いや。ちょっと待て」


 眉をひそめて、アリギュラは改めてイケメンをじっくりと観察した。


 ……髪型やモノクルなど、細かいところでは違う。けれどもまっすぐな青紫色の瞳や、そういえば結構な美形だった顔のつくり。それらが目立たなかったのは、顔の半分を覆い尽くしていた深緑の鱗のインパクトがすごかったからで。


「おぬし、まさかメリフェトスか!?」


「気づいていただけましたか、我が君!!!!」


 瞳を潤ませ、イケメンその四、もとい、魔王の腹心の部下メリフェトスが歓喜に声を震わせる。ばしりと、先程までとは比べ物にならない力の強さで己の胸を叩き、メリフェトスは高らかに告げた。


「魔王軍四天王が長、西の天、メリフェトス。アリギュラ様をお救いすべく、遥かアーク・ゴルドより馳せ参じましてございます!!!!」



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