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17.魔王、お手並みを拝見する



 王太子ジークの婚約者、キャロラインの出身であるダーシー家により、急遽催された『聖女召喚、祝賀パーティ』。その裏には、魔獣襲撃により疲弊したエルノア王国の現実がある。


 数百年前に封印された魔王サタン。それが復活をしたのは、3年前のことだ。


 以来、魔王は魔獣たちを従え、領土を拡大せんと人間の国を襲い続けている。その波が、ここエルノア国にも押し寄せているのだ。


 日増しに増える、魔王軍に集う魔獣たち。急襲に次ぐ、急襲。先の見えない戦い。故郷を焼かれて逃げてくる人々もいる。そんな惨状において、食物も金も国庫からどんどん消えていく。


 そんな惨状の中、王国に多大な援助を行っているのが、キャロラインの生家ダーシーだ。


「王都が安泰でいられるのは、ダーシー家の支援のおかげだな」


「麦も、羊も、じゃがいもも。すべてダーシー家が調達してくれたそうじゃないか」


「今日の料理も、ほら。トマトをふんだんに使った、ダーシー家のある南部の味付けよ」


「お嬢様も、王太子様の婚約者としてご公務に励まれているし……。まったく、ダーシー家さまさまですな!」


(そうですわ!! もっと皆さま、言ってくださいな!)


 ふふんと笑みを漏らし、まほキスの悪役令嬢キャロライン・ダーシーは、婚約者であるジーク王子とともにホールの最奥に向かう。これから、会のはじめとして王子とともに出席者に向けた挨拶を行うのだ。


 ちなみに今日のキャロラインのスタイルは、王子の瞳の色に合わせた、ロイヤルブルーのドレス。きゅっと締まった腰に、ふわりと広がる裾。もちろん、髪型は気合の入った縦ロール。どこから見ても完璧な、ザ・戦闘モードなスタイルである。


 そんなキャロラインには、今宵、大きな目標がある。


(いいですわね、キャロライン。私の今日の目的は、打倒☆聖女、打倒☆アリギュラ様! 今宵、未来の王太子妃としてふさわしい姿をジーク様にお見せすることで、ジーク様の頭からアリギュラ様のお姿を追い払って差し上げるのですわ!!)


 ふんすと両手を握りしめ、キャロラインは決意を新たにする。


 そのために、父にお願いをして今夜のパーティに投資をしてもらったのだ。ジークの婚約者としてキャロラインがパーティの主を立派に勤め上げたなら。きっとジークも、キャロラインこそが自分にふさわしい相手だと目を覚ましてくれるだろう。あわよくば、恋仲というよりは戦友に近いような、今の関係も少しは変えることができるやも……?


(ダメですわ、キャロライン。焦ってはダメ。まずは、己の使命を果たすのが先。果たしたうえで、圧倒的に超えてみせるのですわ)


 ぎゅん、と。音がしそうなほど鋭く、キャロラインは背後に視線を飛ばす。――そこには、聖教会の神官に付き添われて、ぷらぷらと後をついてきている聖女アリギュラがいる。


 キャロラインと目があうと、アリギュラはにやりと笑って手を振ってきた。


 余裕を滲ませたその姿が、かえってキャロラインの闘志に火を灯した。


(絶対に、絶対に! アリギュラ様より私のほうがジークさまのお相手にふさわしいと、皆様の前で証明してみせるのですわ~~っ!)


 そういうわけで。悪役令嬢と、異世界の魔王。


 組み合わせとしては斜め上すぎる()()()()のゴングが、今ここに鳴り響いた。







「紳士淑女の皆様。今宵は、お集まりいただきまして誠にありがとうございます」


 ホールの最奥に到着したキャロラインは、王子と共に壇上に上がり、パーティの参加者に向けて首を垂れる。


 声を張り、堂々と皆に語り掛けるキャロラインに、談笑していた参加者たちも口を閉ざし、にこやかにそちらを見やる。十分自分に注目が集まったのを認識してから、キャロラインは顔を上げて微笑んだ。


「まずは今宵、皆さま共に喜び合えることに感謝いたしますわ。3年前のあの日、魔王復活の報せが届いてからというものの、私たちの頭上には常に灰色の雲が立ち込めていました。ですがようやく、私たちに一筋の光が差したのですもの」


 そうだ、いいぞ!と。何名かの若者が、答えて拳を振る。にこやかに手を振ってから、キャロラインはひらりと優雅に、アリギュラに手を差し出した。


「私たちの(ほまれ)にして希望。光の聖女、アリギュラ様ですわ!」


 キャロラインの一言が合図になっていたのだろう。高らかにラッパが響き渡り、祝福の音色を奏でた。同時に、籠を手に何名かの給仕が走り出てきて、中に入っている色とりどりの花々を空に舞わした。


 わっと歓声が上がり、会場は瞬時に祝賀ムードに包まれる。人々の喜びようを肌で感じながら、キャロラインは胸中でぐっと両手を握りしめた。


(や、やりましたわ! 我ながら、なんて完璧な前振りなのでしょう! これぞ、宴のホストとしての貫禄っ! これならジーク様も満足をして、私こそがジーク様のお隣に立つにふさわしいと認めてくださるはず……!)


 ちらりとジークを見れば、青い瞳と目があった。ジーク王子は優しく目を細めると、こちらをねぎらうように頷いた。それだけで、キャロラインは天にも昇る心地がした。


(~~~っ! 大☆成☆功、ですわ!! これで、第一フェーズは完了ですの。あとは、第二フェーズも成功させて、それからその後は……)


 達成感を胸に、この後の計画へと関心が移るキャロライン。


 ――だが。


 カツーン!と。空気を切り裂くように、高い音がホール中に響き渡った。



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