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11.魔王、おとゅめげえむの洗礼を浴びる


自分も、まほキスの攻略対象者である。


 メリフェトスの衝撃の告白に、アリギュラはあんぐりと口を開けた。たっぷり沈黙すること数秒、異世界の魔王は、弾かれたように叫んだ。


「はぁあああああああ!?!?」


「わ、我が君、耳が痛いです……」


 耳栓をして、うめくメリフェトス。アリギュラはそれを無視して、メリフェトスの胸ぐらを掴んで詰め寄った。


「おぬしが攻略対象者だ!? いったいどうなっている!! おぬしもわらわと同じ、アーク・ゴルドからの転移者だろうが!!」


「これも女神の調整なのですよ、我が君!!」


ぶんぶんと振られながらも、メリフェトスは答えた


「私の今の立場は、本来ほかの男が担うべきものです。しかし、アリギュラ様の置かれている状況を知った私は、なんとしても貴女のおそばに行かねばと女神と交渉しました。結果、元いた攻略対象者の代理として、私がこの世界に送り込まれたのです!」


 メリフェトスによると、元攻略対象者の男も、ちゃんと聖教会に所属しているらしい。しかし、メリフェトスがこの世界に送り込まれるにあたって、まほキスにおける立場や役割がメリフェトスに置き換えられた。


 かくして『聖教会所属、一級神官メリフェトス』という人物が、女神によって、この世界に新たに書き加えられたのだという。


「なんだそれは……。反則技ではないか」


 知らされたあんまりな事実に、アリギュラは慄いた。

 

 しかし真実を知ってしまえば、メリフェトスのやたら盛り盛りな外見も納得である。


 ほれぼれする美形――は、実は前からそうだったが、個性的でお洒落な髪型も、清廉な色気を醸し出す服や小道具も。どれもこれもが、他の攻略対象者のキラキラ具合にまったく見劣りしない。


 否。まごうことなき、攻略対象のイケメンである。


(……むしろ、もっと早く気づくべきだったな)


 遠い目をして、アリギュラは内心ぼやく。


 けれどもすぐに、とある可能性に思い当たり、アリギュラははっと我に返った。途端、ものすごい勢いでベッドの上を後退った。


「つまり、わらわをおぬしのルートに引き込むため、聖剣をおぬしに渡すよう謀ったということか? まさかメリフェトス、わらわをそのように不埒な目で……!?」


 顔を青ざめさせ、小動物のように震える魔王。けれどもメリフェトスは、頭痛を堪えるように顔を顰めて、こめかみを押さえた。


「はぁぁぁ……。やはり、そう来ますか。先に説明できなかったのは、私の落ち度ではありますが」


「な、なんじゃ。どういうことじゃ?」


 普段と変わらず平然とする部下に、アリギュラはおそるおそる問いかける。といっても、大きく開いた距離はそのままだ。隅っこで小さくなったまま警戒を続ける主人に、メリフェトスは肩を竦めた。


「アリギュラ様を私のルートに招いたのは確かです。しかしそれは、人間どもの手から我が君を守るため。あんな連中に、大切な御身を任せるわけにいきませんから」


「じゃ、じゃが。ルートを確定させるだけなら、光の剣を渡すだけで済んだはず。なのに、あ、あんなキスまでするなんて、何か下心があるとしか……」


「牽制のためです! 連中、アリギュラ様の戦闘姿に随分と感銘を……いえ。ハートを撃ち抜かれているようでしたので。それに、聖女のお力を拝借せねば、あの剣を使いこなすことはできませんし」


 淡々と、あくまでビジネスライクに答えるメリフェトス。受け答えをしているうちに、アリギュラも大分頭が冷えてくる。


 怒りの持って行き所をなくして微妙な顔をするアリギュラに、メリフェトスはとんと己の胸を叩いた。


「ルートを確定してしまえば、こちらのもの。人間との恋愛ごっこ、などという茶番を演じる必要もなくなりますし、何より我らは共犯関係になれます。最低限女神の望むおとゅめげえむ的世界感を守りつつ、着実にエンディングを目指せばよいのですから」


「はあ」


 なんと答えればいいのか言葉が見つからず、アリギュラは間抜けな声を漏らす。


 ――メリフェトスの言うこともわかる。


 どうあがいても、聖女として誰かひとりパートナーに据えなくてはならない。本当にそうだとしたら、勝手知ったる相棒であるメリフェトスを選ぶのが最適解だ。表向きは聖女と攻略対象者として過ごし、裏ではこれまで通り魔王と臣下として共闘すればいい。


 だが。

 

(こやつ、これっぽっちも下心なくても、あんなことができるのか……)


 ぷくりと頬を膨らませ、アリギュラは不貞腐れた。随分と()()()の違いを見せつけてくれる。自分なんか、ファーストキスだったのに。


 むすりと黙り込んだ主人に、メリフェトスは腕を組んで嘆息した。


「じきに我が君も、私の機転に感謝することになりますよ。……と。さっそく始まったようですね」


 アリギュラの部屋の扉が、控えめにノックされる。そちらを見やったメリフェトスに、つられてアリギュラも首を傾げた。


 顔を覗かせたのは、伝令役の三級神官だった。


「聖女様……。お休みのところ申し訳ありません。実は、先程の襲撃にて負傷したものが数名いまして」


 ふつふつと、嫌な予感がわきおこる。


 ぎぎぎぎと音がしそうなほどぎこちなく振り返れば、メリフェトスに力強く頷かれた。


「もちろんです。民を癒すのは聖女のお役目。アリギュラ様の()()の出番です」


「ひっ!」


 するりと立ち上がったメリフェトスが、足早にアリギュラに近づく。逃げ出す間も無く追い詰められたアリギュラは、がしりと両肩に手を置かれて飛び上がった。


「や、やめ」


 青ざめてぷるぷる震えるアリギュラ。そんな彼女をまっすぐに見据えて、メリフェトスはモノクルの奥で微笑んだ。


「――聖女の力、借り受けいたします」


 ぎゃああああ、と。


 色気もへったくれもない悲鳴が、聖堂内に響いたのだった。



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