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空に奏でる君は  作者: 一ノ瀬 水々
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放課後

生まれ変わってもいい、そう思えたさよならの季節

「おいシュンペー、今日こそ行くべ魔女屋敷」

大きな声が放課後の田んぼの道によく響いた。こっちを見るその目はまるで冒険にでも出かけるかのようにキラキラと輝いている。

「行かねって、シロ一人で行けばええさ」

 シロこと、源田大志郎は小学校の成績は良くないものの、スポーツ万能でクラスのムードメーカー的な存在だ。幼なじみの僕はそんなシロの行動力にいつも付き合わされて大変だ。

「つまんねぇこと言ってんで、とりあえず魔女屋敷ん前まで行くべーよ」

 ああ、いつもこうだ。シロは無邪気に笑いながら、返事もしていない僕の背中をぐいぐい押して連れていくのだった。



「ほんとに行くんか、シロ」

「おうよ・・・おうよ・・・」

 さっきまで隣で騒がしかった威勢はどこへやら、シロは完全に怯えた表情になっている。それもそのはず、さっきから話していた魔女屋敷を目の前にすると大人だって震え上がるのだ。そもそも魔女屋敷という呼び名も、そのおどろおどろしい見た目のせいで付けられたのだ。実際は詞籠(しこめ)薬草堂という店らしいけど、だれもその名前を呼ばずに魔女屋敷と呼ぶ。なぜなら・・・

「そんなに怖いんならやめとくべさ、諦めろシロ」

 少し意地悪な言い方でシロの顔を覗き込んだ。シロは毎回こうなのだ、最初は威勢よく乗り込むだのなんだの言ってはみるものの、最後は諦めて帰る。この魔女屋敷は僕らの生保内小学校では有名な肝試しスポットになっていて、未だかつて中にまで入れた生徒はいないらしい。目立ちたがり屋なシロはそんな魔女屋敷に乗り込んでクラスの人気をさらに高めたいのだろう。

「ここでやらんで帰れねべや、俺はいぐど!」

 勇気を奮い起こしてシロはズルズルと魔女屋敷に近づいていく。そして重々しい木製の引き戸に手をかけようとした時だった。

 ぞぞぞ、とゆっくり引き戸が開いた。

「あうあう・・・」

 シロが声を失って立ち尽くしている。それもそのはず、引き戸の隙間から覗く魔女屋敷の中には、魔女がいた。

「ずぅいぶん騒がしぃず、小僧っこなぁんぞ用だがやぁ」

 銀色の長い髪を振り乱し、その隙間から見える顔は皺だらけ、そして何よりこちらを見据える真っ赤な目。この詞籠薬草堂の主である老婆はまさに魔女そのものといった風体なのだ。そのせいで魔女が住む屋敷、魔女屋敷と呼ばれている。

「シロ!帰るぞ!」

僕だって怖いけど、必死に叫んだ。その声に反応して、シロがもんどりうつようにこけた。振り返って走りたかったのだろうが、足がもつれてしまったのだろう。「助けてくれぇ」と情けなく声を振り絞るシロに駆け寄った。

「バカ!だから言ったべーや!」

 シロを引きずるようにして魔女屋敷から遠ざける。その間、一瞬老婆と目が合った。

「困ったことあったらぁ、こっちゃけぇぞぉ」

 困ったときは来いと言われても・・・今まさにあんたのせいで困ってますとは口が裂けても言える状況ではなかった。ジリジリと距離が離れた頃に、やっとシロが立ち上がった。そのまま二人してぶつかりながら走って逃げた。

 背後で魔女屋敷から赤い目でそんな二人をしばらく見ていた老婆がゆっくりと引き戸を閉め、何もなかったかのように通りには平穏が戻っていた。


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