第8話 見えている
俺は今、悪そうな男達から少女を守った。
その行為は、少女に善行だと思ってもらえた。
だから彼女は俺のことが認識できたんだ。
「俺のこと、いつから見えてた?」
そう尋ねると、少女は顔を赤くして答える。
「あの、その、男の人の、大事なところを蹴ってたアタリから......」
「そ、そうか」
どうしよ。
股間を蹴り上げるヤバイ奴とか思われてないかな。
尚弥がいらぬ事を心配していると、少女は続けて言った。
「何もなかったところから急に現れたので、びっくりしちゃいました」
そんな風に見えていたのか。
想像すると、ちょっとカッコいいな。
「あれって何かの魔法なんですか?」
「天罰、かな」
俺の答えを聞くと、彼女は首をかしげた。
「おめでとう、ナオヤ君。君が天命に従ったから、その子は君のことが見えているんだよ。良かったね!」
レアさんは拍手しながらそう言ってくれた。
褒められているのだから、悪い気はしない。
ふと少女を見ると、笑顔でしっぽをフリフリしている。
かわいい。
単純にそう思った。
俺はロリコンではないが、単純にそう思ったのだ。
そもそも彼女の容姿は、全身モフモフの毛で包まれている訳ではない。
見た目は人間そのもの。
だが、頭に生えている耳とフサフサのしっぽが獣人であることを気付かせてくれる。
兎に角、人間の様な見た目なのだから、かわいいと思うことに何ら問題はないのだ。
「本当にありがとうございました。このご恩は、いつか必ず」
彼女はそう言って頭を下げてきたので、俺は一応断っておいた。
「返さなくて良いよ、俺が勝手にしたことだし」
少女はもう一度頭を下げると、大通りに向かって歩き出した。
せっかく俺の存在を認識してくれたのに、もうお別れか。
尚弥が寂しさを感じていたその時、
グ~~~
歩き出した少女のお腹が、もの凄く大きな音で鳴り始めたのだ。
グ~~~
グ~~~~
グ~~~~~
三回連続で鳴った!
恥ずかしいのだろうか。少女は耳をピクピクさせながら、この場から逃げるように走り出した。
「ちょっと待ちなよ!」
そんな少女を無慈悲にもレアさんが呼び止める。
「な、何ですか?」
振り向いた少女の顔は真っ赤に染まっていた。
やっぱり恥ずかしかったのか。
「この後ひまだったら、私の家で夕食を食べていかな」
「お願いします!」
レアさんが話している途中で、少女は食いつくように速答した。
先程からの様子を見るに、相当お腹が空いているらしい。
まぁそんな訳で、俺達は三人で夕食を食べることになった。