第7話 獣人の少女
そこには三人の男と、一人の小さい獣人の女の子がいた。
彼女の頬には殴られた様なアザがある。
その子は酷く怯えていて、頭に生えている耳がピクピクと震えていた。
「おい嬢ちゃん、金が出せねぇってんなら、もう一発いくぜ」
三人の内の一人が脅迫めいた事を口にする。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」
獣人の女の子は頭を手で覆いながら謝罪している。
が、
「謝るだけじゃ何も解決しねぇんだよ!!!」
男はそう吐き捨てた。
女の子はどうすることも出来ず、ただ体を震わせている。
「おいお前、やれ」
男はあとの二人のがたいが良い方に声をかけた。
声をかけられた男がその子の前に立ち塞がる。
そこからの流れは予想できた。
恐らくあの子は今から殴られる。
しかもこれが一発目ではない。少女の頬にできたアザがそれを物語っている。
助けなくちゃ。
そう思った途端、自然と体が動いた。
「うぉおおお!!!」
意味のない雄叫びを上げながら突進していく。
大丈夫、あいつらには俺が見えていない。
思いっきりいくぞ。
拳を強く握りしめ、少女の前に立つ男の顎めがけて振りかざした。
「ぐおっ」
男は間抜けな声を出す。
数秒後、彼は白目を向き、膝をついて倒れた。
よっしゃ!
一人倒した!
のは良いのだが、マズい。手が痛い。痛すぎる!
素手で人を殴るとこんなに痛いのかよ......
「おい! どうなってんだ!?」
残された二人は分かりやすく慌てている。
面白いのでもう少し見ていたい気もするが、女の子の安全が先だ。
早く片付けないと。
さっき手を痛めてしまったので、今度は足を使った攻撃。
全ての男に共通する急所を狙おう。
幸い向こうは防具も何もつけていないから、クリティカルが狙えそうだ。
ターゲットは最初に威張っていたあの男。
ムカつくから全力でやってやる。
「とおりゃあ!!」
俺はもの凄い勢いで男の股間を蹴り上げた。
クリティカルだ。
男はすぐさま股間をおさえる。
徐々に顔が青白くなっていき、額からは大量の汗が流れ出ていた。
「あああああああ!!!」
最後に男はそう叫ぶと、股間をおさえたまま地面に倒れ込んだ。
残るは一人。
どうやって倒そうか考えていると、そいつは予想外の行動に出る。
「ご、ごめんなさーい!」
誰に言っているのか分からないが、大声で謝罪して逃げていってしまったのだ。
謝るだけでは何も解決しないんじゃなかったのか?
そんな疑問は持ちつつも、一件落着したことで肩の力が抜けた。
「凄いじゃないか、ナオヤ君」
ここにきて、終始静観していたレアさんのご登場だ。
「レアさんもボーっと見てないで助けてあげれば良かったのに」
「君一人で充分事足りていたと思うけど?」
「まぁ、そうですけど」
「それに、私みたいなか弱いレディーを争い事に巻き込もうだなんて、酷い発想をするものだね、ナオヤ君は」
「......」
レアさんにからかわれた気がしてモヤモヤしていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
レアさん以外俺が見えないはずなのに、どうして。
尚弥は警戒しながら振り向く。
そこにいたのは、先ほど助けた獣人の少女であった。
「助けて頂き、ありがとうございました」
少女は尚弥に対し、お礼の言葉を述べる。
「何で、俺のことが......」
困惑する尚弥であったが、レアの一言により全てを理解した。
「ナオヤ君、君は今、彼女にとっての善行をしたんだ!」